その言葉に嘘偽りなどはなく


部活のお昼休憩の最中。
スマホに映し出された衝撃的な記事にここが体育館の中であることも忘れて悲鳴を上げた。

「な、なんだなんだ?どうした!?」

黒尾の声がして、何かの間違いではないかともう一度画面に目を落としても残念ながら字面は変わらない。
震える私の頭上から何人かの部員が覗き込んできた。

「……『人気俳優のデイビッドが結婚』……」
「若手女優とね!ついこの間否定してたばかりなのにね!やってくれる!」
「えっこの女優めっちゃ美女じゃないッスか!俳優になりたい人生だったぜ……!」
「あーこれ前に流行った映画の二人だろ。結婚する役やって愛が深まったんじゃねえ?」
「うるっさい黒尾!禿げちまえ!」
「なんだ、苗字はデイビッドのファンだったのか」

肩に置かれた海の手に「気にするなよ、次があるさ」と励まされているような気がして余計に悲しみが込み上げてきた。

「もう何を糧に生きていったらいいのかわからないよ……人生という名の超巨大迷路でデイビッドを失った可哀想な迷子ちゃんだよ……」
「え何言っちゃってんすか?意味わかんないのおれだけですか??」
「リエーフ今はそっとしておけ」

いついかなる時だって私はデイビッドに背中を押されてきたんだ。彼を思えばどんな壁だって乗り越えられたし、彼がテレビ越しに『努力を惜しまない女性が好き』と甘い声で言ってくれたから今の私がいると言っても過言ではない。

だというのに。それなのに……!!


「どうした?みんなで集まって」
「夜久くん。今ちょうどマネが大失恋したとこらしいよ」
「はあ?」

お手洗いから戻ってきた夜久は、研磨が指を差す先にある私のスマホを覗くなり面倒くさそうに顔を顰めた。

「……あのなぁ、いくら落ち込んだところで名前とデイビッドが結ばれることはねえんだから落ち込むだけ無駄だぞ」
「や、夜久の鬼っ!鬼畜……っ!!」
「やっくんそれは正論すぎて鬼」
「禿げちまえ黒尾っ!」
「なんでそんな俺に当たり強いの??」
「つーかさ、俺いっつも思ってたんだけど」

夜久が私の目の高さに合わせるように腰を屈めたかと思えば。

「お前だっていずれは俺のになるんだから、デイビッドだかダニエルだかが誰と一緒になろうと関係ないだろ」

短く漏らした「ひえっ」が静かな空間にやけにはっきりと響いた気がする。
夜久はといえば至って真面目な顔で私を見ているのだけど、周りの部員は揃って目をかっ開き誰も言葉が出せないでいるようだった。悪いけど私もそっちの方だった。

「え?二人は結婚するんですか?えっ??」
「し、しないから!ねえ夜久!?」
「何でだよ。俺は先のこと考えらんねえ相手と付き合ったりしねえよ」
「夜久ちょっと落ち着こ!?」

何故かすっぱりとそう言い放つ夜久の肩を掴んで乱暴に揺らせば、その手は大きな手によってぎゅうっと握られて更にはどこか怒ったような顔が近づいた。

「お前は夜久夜久うるさい。いつまでも名字で呼んでんなよ、自分だってそのうち『夜久』なんだから」


……もう部員の顔なんてとてもじゃないけど見られない。
真っ赤になった顔面は何をどうしたって隠せるはずもなく、わかってんのか?と念を押された私には小さく「……はい」と頷く以外の選択肢は残されていないのだった。

end.
2018/08/08
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