すべりこみBomb!


残り少なくなった缶ビールからはちゃぷちゃぷと音が鳴り、後ろからはカチャカチャとボタンを忙しなく押す音。
じとり、私は不満ですってオーラ全開で睨んでやっても素知らぬ顔。というよりも気づいてない。

「終わるよー研磨。今年も終わるよー」
「うん」
「全っっっ然聞いてないよーもー。いつまでやってるのソレ」
「……もうちょっと」
「ハイそれさっきも言ってましたー。その前に年越しちゃうに一票。カウントダウン見ないの?」
「ん」

…………やっぱり聞いてない。
ベッドに寝転がってかれこれ二時間は手のひらの中のモンスターを狩ったり何だりしている。
私はというと一人暮らし五年目の研磨の部屋で一人膝を抱え、テレビに映る煌びやかな格好のアイドルが歌って踊る様を眺めている。
今日ここにいたであろう幼馴染みの名前を呟けば寂しさが倍増した。

「……なに?」
「クロがいればなぁって言ったの。珍しいよね私たちを置いて初詣に行くなんて……もしかして彼女かなぁ?」
「……海さんと夜久さんとだって」
「あぁ懐かしのメンバーでね。なぁんだ」

研磨はいいの?と問えば「寒いからいい」と返されて。
研磨らしいなぁとは思いつつもちょっぴり寂しい気もする。だって本当は行きたかったんだもん。
クロが言えば渋々行ってくれるかなぁなんて思ってたのにちゃっかり自分だけ行っちゃうなんて……薄情者め。

ビールを一気に飲み干したところで、何度目かのゲームオーバーのBGMが聞こえた。
小さな溜息と、ぽすりとゲーム機を手放す音。それに加えて「飲みすぎじゃない?」と余計な一言。

「全っ然飲んでませーん」
「うそ」
「うそじゃないもーん。」
「もう三缶空けてるじゃん」
「大したことないもーん」
「……水持ってくる」
「いらないってば……あっ、カウントダウン始まるよー!?」

10!

台所の方に消えてった研磨からの返事はない。

9!

ああ、今年も終わっていく。
せっかく初詣に誘ってくれた友だちの顔が浮かんで、今頃楽しんでんのかなぁなんて、他人事みたいに。他人事だけども。

8!

7!

クロも楽しんでるかな。
職場の人も、実家の家族も。みんな。

6!

少し寂しいのは私だけ、かな。

5!

「名前」

振り向いた先にいたのはコップを持った研磨、ではなくて、上の部分が丸い小さな箱を持った研磨。
何だろうなんて野暮なこと思うはずない。
ずっと憧れてたんだもん、よく知ってる。

4!

3!

いつか研磨とって、ずっと願ってたんだから。

2!

「……今年だけじゃなくて。これからも」

研磨の小さな声が少し震えている。

1!

「……ずっとおれと、一緒にいてください」


───ハッピーニューイヤー!!

画面の中で紙吹雪やらテープやらが飛び交う中、私は何の言葉も出せなかった。
研磨はいつもと同じスウェットだし。私も部屋着だし酔っ払ってるし。そもそもムードだってないし。

「と、唐突すぎやしませんか」
「え……おかしい?」
「いやそういうんじゃないけど、全然そんな雰囲気じゃなかったし……研磨ゲームしてたし、私ビール飲んでたし」

ゴニョゴニョ続ける私をどう思ったのかはわからないけど、どこか不安そうに研磨が言う。

「……返事は?」

夢なんかじゃ、ない。
研磨の手の中にある銀色のそれは多分、いや確実に私のサイズにぴったりなんだろう。

答えなんて決まっているのに私の恋人は緊張した様子で私の返事を待っている。
その姿がどんどん歪んで見えてきて、雫が頬を伝ってくのを感じてやっと涙を流していることに気がついた。

「……よろしくお願いします」

キラキラした石のついたリングはやっぱり私のサイズにぴったりで、いつの間に調べたんだろうとって考えてたら余計に愛おしくなった。

初詣は明日二人で行こうね、と言うと一瞬顔を顰めた研磨だったけど
「ずっと一緒にいるんでしょ?」とわざとらしく言ってやれば観念したようで、笑いながら私を抱き寄せた。

「あ、遅くなったけど……あけましておめでとう」
「ふふ。うん。これからもずっと、そばにいてね」

最後の方は優しく重ねられた研磨の唇のせいでうまく言葉にならなかったものの、その柔らかなまなざしが「当たり前だよ」って言ってくれてるような気がしてもう、それだけで十分だ。


『上手くいったか?』
『おかげさまでね。ありがとう』
『幸せにな!ってやっくんと海が』

送られてきた懐かしいスリーショットに口元が緩み、すっかり寝息を立てている名前の頭をそっと撫でた。

end.
2018.01.13
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