ありったけの愛をあなたに(3)


「おつかれっしたー!!」

ビクリと震えた。部活が終わったみたいでみんなの足音が近づいてきて立ち上がり俯いた。
それでも部員のみんなが興味深げに私を見ているのには気がついたし、黒尾が「はーいあんまり見なーい」と後輩の首を正してたから間違いはない。

後の方から出てきた夜久は慌ててやってくるなり、「着替えてくるからもう少し待ってて」と走っていってしまった。
慌てなくていいと言ったけどちゃんと夜久の耳に届いたかは定かじゃない。

それからまもなく、たくさんの箱やらラッピング袋やらを抱えた夜久の姿があった。


「……お待たせ」

頬が赤い。夜久だけじゃない。私だってそうだ。
ここじゃすぐ余計なヤツらにつかまるから場所を変えたいと言うので少し歩くことになった。
自転車を押してさっき来た道を今度は夜久と二人で歩いている。

「公園寄ってかねえ?」

多分たくさんのプレゼントを抱えるのはものすごく大変だと思って小さく頷く。紙袋の持ち手をきゅっと握り直してベンチへと向かった。
どちらからとも無く一人分ほどのスペースを空けて座った。

緊張したけど、私の方から話すべきだと息を吸った。

「……た、誕生日おめでとう!これ、良かったら、なんだけど……どうぞ」
「あ、ありがとう」

ずっと握りしめてた紙袋を差し出すと夜久はどこか緊張気味に受け取ってくれた。
夜久の逆どなりにはたくさんのラッピング袋が置かれているけど、私のプレゼントに視線を落として動かなかった。

「中、見てもいい?」

勿論と返せば少し嬉しそうに笑って大きい方のリボンを解いた。中に入っているそれを見て、「タオルだ!お、柔けえ!」と喜んだのも束の間、私がチマチマと努力した集大成に目がいったみたいだ。

「3って……俺の。っていうかコレ、苗字の手作り?」
「前に練習見に行ったときに夜久、3番の着てたなーって思って。でも刺繍とか初めてだからちょっと歪になっちゃったけど……」

「何だよそれ。……すっげえ嬉しい」

夜久が歯を見せて笑う。
やっぱり何でも喜んでくれるだろうとは思ってたけど、予想以上。こっちが嬉しくなるレベルだ。
袋の中にもう一つ小さな箱があるのに気がついた夜久は「まだあるのか?」とワクワクしている。ただのクラスメイトなのにやりすぎかな?と思ったけどどうしても渡したかった。
私からのおめでとうが残すことなく伝わって欲しかったから。

「ケーキだ。これも苗字が?」

何枚か書いた中で唯一上手くいった『夜久 ハッピーバースデー!』のプレートを乗せたショートケーキ。
ホールで焼いて二切れだけを箱に詰め、残ったのを少し味見してみたけど悪くはないと思う。

ケーキを持ったまま夜久が何も言わなくなった。
もしかしてショートケーキは苦手だったのかな。どうしようかと焦っていると目が合った。

「今更だけど俺の誕生日知ってたんだな」
「実は一昨日黒尾から聞いたばっかりなんだけどね」
「黒尾に?……もしかして一昨日、正門のところで?」

そうだよと頷くと夜久は深いため息をついた。顔を押さえた両手の隙間から覗く耳の赤さに、たまらずドキリとしてしまう。

「取り越し苦労だったってことか〜」
「え?何が?」
「こんなに手作りのモノもらったら、期待しない方が無理だろって話」

大きな目が私を見つめている。

静かな、でも、力強い瞳で。

「俺、ずっと苗字が好きだった」
「……へ」

「お前は?俺を好き?」


聞き間違いなんじゃないかって。

夢を見ているんじゃないかって。

それでも今、確かに目の前に夜久がいて、私を見ていて、その目の中には私がいる。

「そうじゃなきゃこんなこと、しないよ」

……ちゃんと伝わっただろうか。小柄だけど筋肉質な腕が伸びてきてぎゅっと抱きしめられた。
制汗剤の匂いに混じってわずかな汗の匂いと、夜久の匂い。
私のなんだか夜久のなんだかわからない心臓の音を聞きながら私はその背中に両手を回した。

「……こんな嬉しいことばっかな誕生日、初めてだ。夢だって言われても、嘘だって言われてももう誰にもやんねぇ」
「……夜久」
「好き」

私までこんなに嬉しくなっちゃって、これじゃあ誰の誕生日なんだかわかったもんじゃないな、と心の中で笑う。
今日のことを教えてくれた黒尾に感謝しなくちゃ。

「私も夜久のこと、ずっと好きだったよ」

そう言うと今日一番の幸せこぼれる笑顔で夜久が笑った。

end.
2017.08.08
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