未練と足枷

帝国との争いが遅かれ早かれあることは自覚していた。
ラインハルトという帝国の英雄が生まれ、ヤンという同盟の英雄が生まれ、歴史の流れは争いに向かう。
そして負けた方がそれぞれの星を制する者いや、宇宙を制する者になる。
その幕開けのようにロイエンタールの艦隊がイゼルローン要塞を訪れた。しかも大きな花火をあげたいらしく、大軍ときている。
遭遇した艦隊はそそくさとイゼルローン要塞に戻り、そのむねを伝えた。
聞いたカーチャルは薔薇の騎士に話をする。
一流には二流をあてればいいのではないか。
女帝はその中に紛れるつもりでいたのだ。

「それはよくないわ。」
「フレデリカ?俺が、負けるとでも?未来の俺がいないかぎり無理だ」
「あなたが負けるなんて思わないわ。でもヤン提督がお許しにならないわよ。あなたが死んだり怪我をしたら・・・・・・」
「戦場では誰かが死ぬんだ。ヤンの護衛として危ない分子を排除するだけだ。俺が死んだどころでユリアンが代わりに・・・いやそれ以上だな。」
「そうじゃないの。私が言いたいのはヤン提督の・・・・・・」

フレデリカが言うことを躊躇ったのは、ヤン提督を想ってではない。自分を想ってでもない。女帝の酷く冷たい目に負けてしまったのだ。
見透かしておきながら何も語らない目をしている。知っていながら言わせないようにしていた。
知れば自分を忘れてしまいそうで、周りを見れなくなりそうで怯えている。

「・・・・・・俺は帝国も同盟も興味はない。歴史の移り変わりを見ていたいだけだ。その歴史にどんな形でめ刻まれる立場に立ちたくないのさ。フレデリカ、これは最大の我が儘だ。あくまで立場は護衛でいい。」

初めて見せた優しい笑みを、フレデリカは一生忘れられなかった。見守る母の目に近い。そして彼女が子供のような我が儘の裏が誰よりも大人であると知る。
大人とはただの足枷に過ぎない。
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