怒りの代弁

「ふざけるな!!貴様、娘を捨て何してやがる!!ドワイトのくそったれが!!」

女帝にそう叫ばしたのはクーデターにより、同盟を支配しようとしている救国軍事会議とやらの放送だった。
実効支配のもとにおいた、か。女帝は溜め息しかでなかった。
それを怒りに変えたのは救国軍事会議の議長とやらが、フレデリカの父だったからだ。
女帝の主義うんぬんより、娘をどうする気であるかという人として怒ったに過ぎない。
クーデターを起こしたら、軍とクーデターとで敵同士になるのは目に見えている。
ヤンはカーチャルの怒りを放置した。
カーチャルは周りの怒りと動揺を代弁したに過ぎない。
止める筋合いはないのだ。

「まぁ落ち着け、騒いだところで今更変わらないんだ。」

そういってカーチャルに酒を勧めたのはアッテンボローである。
カーチャルはあまり酒を口にはしない方ではあったが、今回ばかりは酒を欲した。

「酒の味は変わらんな。」
「それよりフレデリカだ。普通なら副官の任を解かれる。まぁ、ヤンが任を解くまねはしないだろうが。」
「解かれたらお前にまわるだろうな。イゼルローンのシステムを強化したのはお前だろ、カーチャル。」
「副官とは別な仕事だろう。ヤンはフレデリカの任を解かない。解いたら殴ってやる。」
「ずいぶんヤンを信用してるな。」

アッテンボローはからかうつもりで言ったが、女帝は真剣に捉えた。
酒が入っているからだろう。
普段なら語らないことをぶつぶつと語り始める。
アッテンボローはカーチャルに酒を飲ませたことに多少後悔を覚えた。

ハイネセンに急ぎ戻らないならない女帝は、ヤンと交渉を始めていた。
あのときは大したことを思わなかったが、何故不本意な争いに出なくてはならないのだろう。
フレデリカの父と戦わなければならないのだから。
くだらない。実にくだらない争いだ。しかし、やらないわけにはいかない。
しかし、カーチャルにはハイネセンに行かねばならない用事があった。大切なものをあの場に置き忘れてしまったのだ。
ヤンはしばらく考えてから、許可をおろした。
内部事情をヤンに送る役をやりながら自らの事情もこなす事になった。
トリューニヒトの不在の件はヤンや女帝を驚かせた。
あらかじめクーデターを知っていたとしか考えられない。
カーチャルは怖いなと思いながら仕事に移った。
頭の片隅にはトリューニヒトが悪魔なのではと考えていた。自らは傷つかず、市民から歓声を浴びる立場にいる。
素晴らしい精神力だ。
イゼルローンに戻れない女帝をさらに怒らせる日は六月二二日である。
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