目を開けて彼女は視界の変化を感じる。感じざるおえない。
白いベッドの上でうつむきながら、彼女は右手で顔の右側を触る。
布の感触が手に伝わり、爆発のことを思い出す。
彼女は自分が暗殺される可能性について考えなかったことを悔やんだ。婚約者気取りで家を継ぐことも出来たはずだ。
しかし、彼女が生き延びたせいでそうも言ってはいられないだろう。これで自らの首を絞めたことになる。
彼女は自分の執事が爆発をあの強さにしていた理由を悟った。
見合い相手が暗殺を計画したのなら・・・
「失礼する」
「・・・」
マーティルダは訪れた客人にどのような顔をしていいか悩み、とりあえずわらってみせる。
義眼の男は気にもせず、彼女の顔を見つめた。
「卿の右目は見えているのか」
「さぁ顔の右側は包帯で巻かれて、何も分かりません。ただ、爆発で焼かれたなら皮膚がただれて、見えていても瞼が開かないでしょう。」
マーティルダはやはり表情に悩み、わらってみせる。
ミッターマイヤーやヒルダになら、悲しんだり笑ったりした顔を見せても違和感はないな、と彼女は頭の端で思う。
片想いの相手だからこそなのだろう。
「皮膚を取り替えるなんてありますか。義手の方がマシだわ。まぁ取り替える技術があったとしても、気持ち悪いですから、包帯のままでいいです。無事な皮膚が、焼かれた皮膚に引っ張られるようなことになってないようだし。」
「実行犯は捕らえた。自らの首を絞めるとは愚かな」
「確かに。そこまでしても欲しいですかね、貴族。フォンをつけて名乗るのをやめようかな。この顔でも貴族目当てで来る輩がいるだろうし。」
マーティルダは恋を捨て、さっさと結婚してしまえばいいのかと思う。こんな事態が起きることもないわけだから。
しかし、結婚しては軍で働けない可能性に気づくマーティルダは先程の考えを諦めた。
マーティルダの顔からオーベルシュタインは考えを察したらしく、冷たくいい放つ。
「軍にいる者と結婚することだな」
「そうですが、頭はよくないですし、ましてやこの顔では・・・」
マーティルダは包帯で見えない右側を手でおさえた。
女としては気にして当然である。
「なら、私と結婚することだな。卿の中にあるかつての資料を手放す訳にはいかない上に、卿の思考は閣下にとって必要なものだ。」
彼女は行き場のない謎の感情にしばらく放浪された。