20.珍しい訪問者 1/4

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帝国歴487年 10月 アムリッツァ星域会戦により第8艦隊に大損害を与えたものの、その後第13艦隊により、黒色槍騎兵艦隊は大きな損害を受けた。これによりローエングラム公からの謹慎し処分を待つことになっていたはずのビッテンフェルトは、処分の取り消しを驚いたという。
カサンドラは何も反応せず「取説読んだか!?」と心では呟いていた。この戦争に限らず結末を知っていたのだが、戦争の専門家ではない彼女が口を挟むことは違和感しかない。彼女は白兵戦においては戦術家であったが、戦争においては無能であった。
アムリッツァ会戦の終わり、皇帝の死もあり、休暇をとるものが続出。二人は引っ越しを兼ねて同時にその波に乗った。
広い官舎に移ることになった二人だった。イメージは2DKか。しかし、相変わらずビッテンフェルトは床で寝ていたという。シングルベッドが一つしかなかったことが理由で、二人で寝るにはあからさまに狭すぎた。部屋は殆どカサンドラにより私物化され、ビッテンフェルトには最低限のスペースしか与えられなかったようだ。ビッテンフェルト自身がそうしたこともある。
とうとう趣味は読書という枠を超えたカサンドラに書斎を奪われ、歴史書と後に輝きそうな文学的感受性のある本で埋め尽くされた。猪が読むには小難しいものばかりで、ビッテンフェルト自身が書斎に入ることを嫌がった。しかも、彼女は仕事を持ち帰り、戦死者の書類と生存者の書類を分けていた。一時的に考えられる手当ては出ていたが、正確な数値を計算することはこれから。特に下士官は今回大量に戦死した。相当な金額に及ぶだろう。また、生存者を今後食わせる食料と整備費もある。各艦隊が早めに提出せねば、それらをまとめるローエングラム元帥が苦労するだろう。もっとも、足りない金は今後の争いで貴族から奪うことは目に見えている。
ビッテンフェルトの方は彼女が休暇まで仕事をしている姿に嫌気がさした。彼女が来てから二年、付き合いでして半年以上経過しているが二人は何の進展もなかった。軍人であるため暇がなかったことは事実だが、本人は意識していないがカサンドラに隙がなかったこともまた事実である。恋愛でも猪突猛進であれば、すでに結婚まで行き着いていたであろう。
触りたい願望があったようだが、今回の戦いで無くなったとはいえ処分を言い渡されたため、ビッテンフェルトの気が乗らなかった。それどころか仕事をするカサンドラに見えない不安を感じていた。
「こういう性格の奴はストレスを溜めたら死ぬんじゃないか」
冗談か本気か、その辺りは置いておこう。ストレスに対して危ない性格であることは正しかった。なるべく出歩かせて発散させること、を思い付いたビッテンフェルトは、唐突に立ち上がった。

「よし、行くぞ」
「はあ?午後四時ですが、今ですか。いってらっしゃい」
「お前も行くんだ。休暇まで屋根の下とはあのオーベルシュタインでもあるまいし」
「事実を知らないで言うものではありませんよ?何が嫌いなんですか」
「存在だ。あんなネクラで陰湿な男が参謀だと?確かにお似合いさ。じめじめとした―」

話が長くなることを悟ったカサンドラは、ビッテンフェルトから顔を背けて興味のない雑誌に目を向けた。暇潰しに彼が買ったものらしいが、家具のカタログを見て何がしたいのか理解できない。今は観光地の雑誌があれば役に立ちそうだ。正直、「え」のつく本が置いてあれば、ビッテンフェルトの趣味が理解できて面白いのだが。
話すために口を開けたが、インターホンにより遮られた。黒色槍騎兵艦隊以外の珍しい訪問者に、カサンドラもビッテンフェルトも予期していなかった。
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