19.悪意ある人事 1/2

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二人の付き合いは公表も隠しもせず、これが正しい選択であるとカサンドラが決めたことだった。仕事と私情の区別がつく二人だったため、不満はなかったという。ただ、彼女の周りはそうでもなかった。カサンドラの知らぬ間に出来たファンクラブの会員が発狂したとかしないとか。
ローエングラム公が元帥に昇進し、自分の配下に若手の部下らを置いた。ビッテンフェルトが中将に昇進し、黒色槍騎兵艦隊の人事もある程度変動があった。中でも揉めた人事があり、理由が「つきたくない」といったものであった。末端ものは司令官がビッテンフェルトと聞いただけで昇進を断ったそうだ。
この悪意ある人事を届けられた相手はカサンドラだった。
格闘訓練の中、昇進し副参謀長になったオイゲン大佐が報告に来たのだ。薄着で汗だく状態のカサンドラにはタイミングが悪く、内心で怒りをぶつけていた。
人事に関する詳細の書かれた紙を見たカサンドラの一発目の感想に、オイゲンは言葉が出なかった。

「読めません」

拒否されていると思ったが、本当に理解できないだけだったようだ。
考えなくても分かることだが、彼女は幼年学校を出ずにここにいる。本来ならありえないのだから、階級をみて理解できないことも不思議ではない。そもそも、そんな彼女を昇進されること自体が悪意があるようにみえる。

「簡単にいうと曹長です」
「なんですか、それは」
「最先任下士官」
「だからなんですか、それは」
「上級曹長です。そう言えば分かりませんか」

ここには陸軍の上級曹長制度でも入れていたのか、それとも分かりやすく言ったのか。銀河英雄伝説本編では帝国の下士官の影が薄くて出てきていない。正直、さっぱり分からなかった。今ここにパソコンがあるなら調べたくなるが、ここでの基準に沿った仕事をせねばならないから、当てにはならないのか。
彼女の頭には最先任上級曹長とも先任伍長とも捉えられたが、この際はどうでもよかった。オイゲンの説明を彼女の頭で直されたまま説明すると、下士官と士官では違う規律で動いている。その規律の徹底や訓練、指揮官および司令官を補佐し、伝達する役割を担う立場に位置する。そして幕僚監部では最先任下士官という名称らしい。

「下士官の最上位の階級ですよね?私が一気に昇進してどうするんですか。他に行きたがる人がいるはずでは?」
「一番の理由が嫌がられた事のある。閣下の補佐をして下士官の面倒まで見ては胃に穴が開くと。もうひとつに、曹長の年齢層が上がり、若い士官が頭を下げる実態があったこともある。」
「オイゲン副参謀長の方が開きそうです。そういうことなら構いませんが」

それを知った彼女も実は胃が痛くなったのだが、オイゲン大佐の心配ごとを増やさぬように押し黙った。死ねばいいのか、死ねば。
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