8.心配性な猪 1/3

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義手が出来るまでの短い間、休暇をとり、一人で買い物や犬の世話をする。
ビッテンフェルトが心配してくれているのか、頻繁に連絡を寄越してきた。腹の立ったカサンドラは、冷静に電話配線を引き抜いた。本当に重要な電話が来たときのことなど気にもせず、電話は箱としての機能を果たすことになった。
やられた側は怒りよりも悲しみに耽ていた。配線を抜いてまで拒絶されたことに、本当に悲しんでいたのだ。
突進する猪が止まっていると違和感を感じるもので、ミッターマイヤーとロイエンタールは奇妙な猪を見つめた。ロイエンタールは敢えて針で突っついてみようとする。

「電話配線まで抜いて拒絶するか、普通!?」
「そこまでやられるほどしつこい卿が悪い。」

それと同時に、配線を抜く選択を躊躇わずに行う相手も凄いと思う二人。部下にそこまでやらせる上司もいないが、上司にやる部下もそういない。ある意味バランスがとれて良いのかもしれない。

「あれは一人で無茶をするんだ。何度も叱らんとやめないだろう」
「毎回電話で怒鳴っていたら、拒絶したくもなる。
俺も毎回エヴァから怒鳴っていたら、嫌になるさ。」
「卿はまあ、素直すぎるからな。」

ロイエンタールには配線を抜いた理由が、単純にウザいと思われたからなのか不思議に思う。ストレートに心配されたことが恥ずかしさを呼んだのでないか。
どちらにしても、面倒に思われたことは事実だろう。
怒鳴りつつ心配するビッテンフェルトにミッターマイヤーは、子どもができたらこうなるのだろうかと想像した。娘に変な虫がついたら確かに嫌なものだ。
ビッテンフェルトと別れたあと、二人はバーに入るつもりで暗い夜道を歩いていた。
無差別連続殺人事件の犯人が未だに見つかっておらず、この周辺では子ども連れでの外出はあまりいない。二人は事件のことを思い出して、話しながら進んでいた。当然、後ろの気配に気づきながら。
人気のない道にまで出て、二人は敢えて立ち止まる。これであちらもチャンスだと思ったのだろうか。
出刃包丁を片手に太った男が出てきたのだった。
二人はブラスターを抜こうとする。しかし、一般人相手にブラスターを使うこと、人気がないとはいえ外した際の危険が頭を横切り、ブラスターは出さなかった。
太った男は巨体で走ってくる。予想よりも動きが軽く、そして異質な臭いがした。薬物である。予想より機敏な動きが惑わされる二人。
殺せないと思った男は、方向転換して走り出した。

「あ、コラ!!」
「行くぞ、ミッターマイヤー」
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