41.素直になれない 1/1

bookmark
全治2週間。頭、脚、腕の主に三ヶ所に目立った怪我を負った。脚と腕は撃たれた結果だが、頭は打ち付けたことで昔の傷が開いたことが原因だった。血塗れで立っていたカサンドラを救出しに来たケスラーはどう思ったのだろう。病室で退屈しのぎにくだらないことを考える。個室の病室では話し相手がいない。マーティルダが暇潰しに付き合ってくれたが、最近体調が悪いらしく来させるわけにもいかない。残念ながら暇潰しになりそうな襲撃の一件の報告書と憲兵を殴った始末書は書き終えている。
苛立っていたとき、扉が開いた。マリーカが顔を覗かせている。

「どうした、マリーカ」
「お見舞いに来ました。皇妃が退屈しているから行ってあげてくださいと」
「あぁ、なるほど。来たくないなら来なくてもいいのよ。見舞いは義務じゃない」
「おっしゃる通り退屈でひねくれてますね。」
「お前、意地悪いんだな?」

機嫌の良し悪しをチェックされたことに気づいたカサンドラは苦笑いをした。マリーカが純粋な子であることが頭から抜け落ち、冷たいことを言った自分を恥じる。気にしないマリーカはベッドの近いパイプ椅子に座る。

「マリーカ、ケスラー提督に食事を申し込んだんだって?どうだった」

日本人なら早々に訊かないであろう質問をぶつける。恋愛にあまり興味ないカサンドラでも、気になる質問であった。
明らかに恋をする乙女の顔をしているマリーカに、どう反応すればいいか困ってしまう。

「ご一緒にお食事して楽しかったです。」
「それだけ?」
「えぇ?はい。」
「思春期か、お前らは」

ケスラーは女性をエスコートする立場だろう、とため息をついた。原作から恋愛に疎い帝国軍人というイメージがカサンドラは持っていたが、改めてそう感じる。カサンドラは彼女の肩に手を置いて悪いことを考えていそうな笑みを向ける。

「いい?恋はいつでもハリケーンなのよ」
「えっと、押していけってことですか。カサンドラさんもその、押していったと」
「私の結婚はボランティアよ」

その台詞には笑われた。

「そんなことありませんよ、ちゃんと愛していらっしゃるではありませんか」
「何を根拠に」
「ビッテンフェルト提督のお話をされる際は楽しそうです」

カサンドラはマリーカから目を逸らした。感情が表に出ないとよく言われるが、わかる人には多少の違いも認識出来るのだろう。それを指摘されるとどこかがソワソワするような気分になる。嬉しそうに笑う彼女に嫌そうな顔を向けた。

「それは照れ隠しですよね?」
「そんなことじゃない。」

内心ため息をついた。カサンドラのため息は大したことではない。マリーカのため息は、若干呆れを孕んでいた。ここまで感情表現が不器用では誤解しか招かない。おそらく多くの人がカサンドラのビッテンフェルトに対する愛を気づかずに、夫婦仲が悪いと思っているに違いあるまい。これが友情で起きた誤解だったら、どうなるだろう。
マリーカは笑ってカサンドラの病室をあとにする。
残された側はつまらなくなった病室の天井を見つめた。感情表現が苦手であることは理解している。今周りにいる人が理解してくれることに甘えていることも分かっている。
今さら表現するすべを学べるとは思っていない。幼稚園の時から塾に通い、誰かと遊ぶことをしてこなかった。小学校では中学受験のために塾に行き、中学後半で嫌気がさした。誰かと遊んで、誰かに恋をしている光景が眩しかった。いじめていじめられる光景ですら、羨ましく感じるほどに。しかし、輪に入る手段を知らなかった。高校で初めて友達ができた。理菜がその一人。感情表現が苦手な私を仲間に入れてくれたクラスメイトにも感謝している。もしそのときに感情を表に出すことを学んでいたら、少しは自分自身が変わったのだろうか。
腹が立つほど白い天井に呟いた。

「愛してます、私はね」

この素直な気持ちに返事は返って来なかった。
[戻る]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -