36.小さな幸せ 1/2

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帰ってきたカサンドラを出迎えたのは愛犬アルテマである。飛びつかれ、押し倒されたカサンドラは、30分ほど愛犬を撫でまくる羽目になった。満足したアルテマを見て迫る問題に取り組むことにした。
引っ越しである。
実は急ぐ必要はない。これからヤン提督がハイネセンをあとにするまで時間があり、余裕がある。一人で行うことが問題なのだ。
ミッターマイヤー夫妻は旦那がしっかり者だが、ビッテンフェルト提督はそうであるとは言えない。戦争以外ではどうしても欠陥が目立つ。
フェザーンの住宅探しから始めねばならない。マーティルダは「提督特権で家ぐらいいいのでは?」と言ってきたが、「大きい家は掃除が大変」と切り捨てた。

「うーん、フェザーンって美味しいものあるのかな」
「食い気か。美味しいものかどうかはともかく、商売を今まで通りさせてもらえるのだから、質は落とさないでしょうね。こんなときだからこそ。」
「なるほど。私も引っ越そうかな。」

冷たい視線をマーティルダは感じた。ときより、カサンドラに嫌われているのではないか、と思うときがある。これは彼女からの不器用ながらの愛と知ることに、マーティルダとビッテンフェルトの場合は時間を必要としなかった。行かない方がいいのではないか。マーティルダは言われなくても、反対されている事実に気がついた。

「行くよ、友人がいるんだし」
「友人?」
「え?嘘でしょ?」

友人である、と思っていたのは両者ともであるが、わざわざ言われると冷たい態度であしらってしまいたくなるのがカサンドラである。友人か知り合い止りか。マーティルダは話を続けた。

「フェザーン楽しそう。」
「おいおい」

結局マーティルダにはフェザーンを最後に出れなくなるが、それは別の物語だ。
引っ越しの際の持ち物は多くはない。何故ならオーディンの自宅を手放す気はなかったのだ。いずれまた使う。このカサンドラの勘はすぐ役に立つことになる。
マーティルダとビッテンフェルトを置いて引っ越しの支度をしたカサンドラ。最低限ビッテンフェルトがフェザーンを拠点として生活できるものを郵送した。帰宅できるかわからない軍人のために。
新帝国暦2年1月 ヤン・ウェンリーがイゼルローンを再攻略する前の話である。
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