31.証拠なしの疑惑 1/2

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ラングが任意で彼女を事情聴取したことは、ビッテンフェルトの耳に入らなかった。彼女が黙っていたことが一番の理由にある。言えばラングに何をしでかすか、口に出さなくても分かっていた。
出生不明という点は帝国内部では不思議なことでもない。しかし、彼女がどの辺りで生活していたか、どうしてあの場にいたのか、明かされていない。しかも、帝国公用語が話せなかったという不可解な点がラングの目にとまったのだ。自称自由惑星同盟やフェザーンのものではないか、と。根拠はあくまで推測にしか過ぎないが、否定する証拠もない。カサンドラには事情聴取を拒否することが不利益になると判断し、不愉快ながらもラングのために限られた時間を割いた。隙さえ見せなければ証拠の捏造までは及ばないであろう。将来性のあるラインハルト・フォン・ローエングラム公の部下であるビッテンフェルトの妻をわざわざつつくだろうか。自分の上が奪えるわけでもないのだから。
エヴァンゼリンは勘の鋭い女性だった。見た目と年齢に似合わず、無意識に危機感を感じ、ミッターマイヤーに些細な出来事として話して聞かせた。それを聞いたミッターマイヤーは、内国安全保障局という不可解な立ち位置の組織にオーベルシュタインの顔を重ねた。

「何かと奴を出すのはいかんな」

と、言ってみた。今回はラングの単独行動で、ラングの無価値に見える行動をオーベルシュタインが黙認していた点以外は関係していない。
彼女に対する内国安全保障局の取り調べが過激化したのは結婚して数週間後。ガイエスブルグ要塞のワープ実験前にあたる。
自白剤、拷問は無かったものの、ただの質問責めから怒鳴る行為に変わっていた。カサンドラの件がケスラーの耳に入るのがこのタイミングになった。ラングが公にしなかったためだ。この時点で正当性のない取り調べであることを証明している。
書類の束に目を通し、うんざりしていたビッテンフェルトのもとにケスラーはすぐに駆けつけた。

「ビッテンフェルト提督、卿は奥様の件を知っているのだろうか」
「アイツか?性格のキツい奴だろ。可愛いところもあるんだ。惚れるなよ、あれは俺の奥さんなんだからな」

ビッテンフェルトが書類の束から輝かしい目を向けてのろけてきた。
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