30.エヴァンゼリンの訪問 1/2

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結婚したからといい、何か変わる訳じゃない。住む場所が変わろうと、今までと行うことが変化することはない。ただ、軍人を辞めた途端、失ったような気がした。軍の中で居場所を作ろうとして、自ら離れたくせにずいぶんと我が儘である。カサンドラは広い部屋で退屈そうに笑った。
軍人を嫌だと思いながら、それを居場所にしていた。生き甲斐でさえあったかもしれない。人の命を奪う職に生き甲斐が必要なのか。言い換えて市民を守ると言うべきか。本当に守るのなら、軍人である必要はない。
掃除をし、犬の散歩をし、ただ広い部屋で退屈そうにテレビを見る。暇で仕方がない。

「今なら不倫する気持ちがわからなくもない」

とんでもない発言を、一人で吐いた。不倫をするつもりは毛頭ない。ただ、不意に思ったことを言った。
結婚が幸せに繋がらない人は一定数いる。自分がその一人であると気づいたカサンドラは、内職でも始めようと真剣に考えた。
どうでもいいような妄想とつまらない家事に耐えている際、思いがけない来客があった。確認した時には驚いたが、続く結婚生活の中で慣れていった。
ミッターマイヤーの妻、エヴァンゼリンがアップルパイを持ってやって来たのだ。甘いものは好きではない、と言う場面ではない。断る理由はなかったのでカサンドラは来客を家に入れることを許可した。

「本来なら私から参るところを、ご足労いただきありがとうございます」
「そんな畏まらなくていいわ。私はただの女友達としてやって来ましたから」

女友達と聞いたカサンドラは、下げた頭を戻せなかった。嬉しさ、恥ずかしさが入り交じり、赤面していた。すぐに冷静になり顔をあげると、エヴァは微笑んでいた。
甘いものは嫌いだが、エヴァお手製アップルパイは美味しいと感じた。これを期にカサンドラは、エヴァンゼリンに料理を習うことになった。黒く焦げたチーズの塊が出来た際は、エヴァンゼリンが料理を習うことを諦めかけたのは、カサンドラの死後に笑い話にされた。
そんな中には、奇妙な来客もあった。ガイエスブルグ要塞の移動を成功させる前だったが、ビッテンフェルトには奇妙な来客について聞かされていなかった。大事になるとはカサンドラでさえ予測していなかったのだ。
エヴァンゼリンの作ったロールキャベツを食べながら、作り方を聞いていたときのこと。例の奇妙な来客がやってきた。ミッターマイヤー婦人がいることが、その来客には多少不運をもたらしたかもしれない。

「内国安全保障局の者ですが」

カサンドラは身を引き締めた。ラングごとき小物に隙を見せてなるものか、と。

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