27.前置きは抜きに 1/3

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帰宅したカサンドラは、官舎にビッテンフェルトがいなかったことに動揺した。体調不良が多少冷静な判断力を低下させていたようだ。アルテマに吠えられたため、「探しに行った」という結論に行き着けた。愛犬の頭を撫でながら、玄関先で体育座りをする。当然、帰宅したビッテンフェルトに足を踏まれた。

「お前、そんなに小さかったか?」

正直、日頃の態度が大きかったので背が低いことを忘れていた、と言いかけてやめた。体育座りしていたら、視界に入らない。結局小さいと言いたいことに変わりはないが。
ビッテンフェルトの顔を見たカサンドラは、自分から抱きついて、しかも泣き出した。いつもの猛将なら「煩い」と言ってすませていたかもしれない。

「八つ当たりしてごめんなさい」

珍しく素直に謝られたビッテンフェルトは、持っていた土産を見て「まさかみんなで毒を盛ったんじゃないだろうな」、と勘ぐった。
理屈抜きに謝られた悪い気はしないが、慰めるなんて器用な真似はできない。仕方がないので、カサンドラの両脇に腕を遠し、シングルベッドの上まで運び込んだ。横にはビッテンフェルトが座る。
座らされたことで、少し泣き止んだ。あくまで少し。

「顔色が悪いぞ。なんか食うか。まったく、おれはいつでも体調万全だぞ」
「・・・・・・提督」
「ん?・・・なんだ、この黒い三角形は。ファーレンハイトに何が入ってるか訊くんだったな」
「・・・提督は、死なないでくださいね」

武人が天職であると考えている、また天職である事実があるビッテンフェルトは、返事がしにくい。言い聞かせるように言われた台詞であるとわかる。わざわざ答えるまでもないのだろうが。「おれは、死ぬことはすこしもこわくない」とは誤っても言えそうにない。
不意に今まで思いがけなかったことを考えていた。こいつはおれが死んだら、追ってくるつもりじゃないだろうな。首を振って下らない考えを消した。ありえない。こいつは葬儀費用にごちゃごちゃ言うだけだ。

「提督、私、思ったより寂しがり屋なんですね」
「今に始まったことではないだろう」

むしろ、自分が寂しがり屋ではないと思っていたのか。

「・・・おれは自分の中で結論が出ていたにも関わらず、態度に出さずに不安にさせたことは認める。」
「そんなことありません。私が何も言わなかったんです。ダメですね。言葉にしないと意味がないのに」
「お前にここまで弱音が似合わないとはな。まったく、泣くとブサイクだな」

怒りを顔に出したカサンドラに、にやりと笑いかけた。完全に泣き止んだカサンドラは、怒るように仕向けられて乗ってしまった未熟さに悔しくなった。

「世話が焼ける女だな」
「突き放したらいかがですか」
「は?突き放されたいのか」

口では豪語するくせに、頭の中はネガティブらしい。若干腹立たしくなる。煮え切らない態度に嫌気がさしたビッテンフェルトは、前置き抜きに言ってしまった。
「結婚しよう」と。
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