短編 | ナノ


こたつの魅力

冬になると寒さに堪える。ハイネセンにいる女帝とて例外ではない。
宿舎の暖房をフルパワーでつけるが、まったく効果がない。理由は単純。
昨日の雪が影響らしい。イゼルローンなら人工のため、ある程度楽に生きられる。
四季も緑も基本は作り物だ。それもそれで楽しみがなく嫌ではある。隣の芝生はなんとやら。
他に寒い理由としては部屋に一人だからだ。
複数人いれば寒さも緩和されよう。
カーチャルは重い腰をあげた。
複数人いればいい。ならばヤンとユリアンに会いに行けばよいではないか。
彼女らしい結論だった。
会いに来られた方は迷惑だろうが。
掃除機を持ち、宿舎の兵士になったユリアンは堕落しているヤンを見下ろした。
こんなことなら出すのではなかった。

「ユリアン、やっぱり暖かいな」
「僕は全然ですよ。掃除していたら、こたつに入れませんから。」

ヤンはこたつで紅茶にブランデーを入れていた。
嫌味を無視しのんきに楽しむ提督の他に、のんきにやって来た人がいる。
ユリアンはその人物を確認した後、ちょっとばかり不愉快になった。
どうもここは荒れるらしい。

「准将、何しに来たんですか」
「あぁ!?ほれ、そこそこいいチーズと野菜と肉だ。
だからなんか作れ」

まさに女帝だ。
ユリアンは自称そこそこなチーズとやらをみた。そこそこではすまないぐらい良いチーズなのだが。
こういう場面では彼女が貴族育ちだったということを思い知らされる。
許可などお構いなしにこたつに乱入したカーチャルは、ヤンからブランデーのみを強奪した。
アルコール度数の高いブランデーを割らずに飲めるカーチャルをある意味尊敬できそうになる。
ユリアンはチーズと野菜と肉を眺めて考える。
いい素材をやたらと加工するのは如何なものだろうか。
思い付いたのか、動き出したユリアンを見ながら、カーチャルはヤンに話しかけた。

「あんた、ユリアンがいなくなったら死ぬんじゃないか」
「そんなことないさ。ユリアンが来るまではちゃんと生活していたんだ」
「半栄養失調でか?」

ヤンはしかめっ面を向けてみたが、カーチャルの迫力ほど怖くない。比較したら己が悲しくなるのでやめた。
しかもユリアンがチーズフォンデュを出してくれたのだから、楽しまなきゃ損だ。
ユリアンもこたつに入り、三人でチーズフォンデュ祭りになる。
意地悪なのだろうか。ユリアンはひたすらにヤンにばかり野菜をやる。と思えばカーチャルからはブランデーを奪い、微笑まれた。

「お二人とも、ちゃんと食事をしてくださいね。
せっかく作ったんですから」

渋々二人は目の前に出されたものを食べ始めた。
ヤンも確かに一人暮らしをしたら栄養失調になりそうだか、それはカーチャルも例外ではないようだ。
チーズだけでも楽しい食事なのだが、寒さのあまりこたつから出る気が起きない。
こうなると堕落し出すのが人である。
カーチャルはゴミをゴミ箱に向かって投げ飛ばした。華麗な放物線を描き、ゴミ箱の中心に投げ入れられた。
それを見たヤンは真似を始めた。当然ユリアンは止める側に入る。
すでに投げられたゴミは、箱の手前に落ちた。

「ダメですよ、ゴミを投げたら。
とくにヤン提督は絶対入らないんですから」
「それはないだろう、ユリアン。
百回に一度は入るだろうから絶対はない。
それに私は“奇蹟のヤン”なんだから」
「そんな時だけ都合よく使わないでください。」

と、言っている傍からカーチャルはもう一回投げた。
当然のようにまたゴミ箱の中心に入る。

「准将もダメです。ヤン提督が真似しますから」
「ヤン、入れてほしいゴミがあれば言え。
投げ入れてやる。」

全く聞くなしのカーチャルをユリアンは睨み付けた。
よく考えればこたつが人を引き付けているのではないか。だからゴミ箱に行くことすら止めさせているのだ。
睨む目をこたつに移した。
絶対にこたつは今日限りで封印しようとユリアンは決めたのだった。
ベルが鳴りユリアンは仕方がなく確認すると。
「寒いんで遊びに来たんだけど、ヤン提督いる?」
アッテンボローがいた。
実はこたつはかなり広範囲から人を引き付けているのかも知れない。

〜あとがき〜
うちにはこたつはありませんが、こたつから出るのは勇気がいりますよね。
それに寒いと人といたほうが楽しいですから、動く気がさらに減るという・・・・・・
続きはあるんですが、面倒でやめました。
女帝は実は雪が嫌いなんですが、その話はまた次の機会で。

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