短編 | ナノ


愚痴もいいもんだ

帝国にいた頃、フェザーンを訪れたことがある。もちろん観光ではない。あくまで仕事の一環らしいが、おおかたやらせることがなかった為追い出されたのだろう。貴族にとって気にいらない奴の暗殺なんてやるより良い。過去に自分より年下の女を暗殺するように命じた貴族が、その子に反撃されて痛い目ことがあったな。彼女の行動力には感心した。おそらく、市民での人間のはずなんだが。
ともかく、やることがなかったことは事実。やることがないと何をしていいか分からないもので、敢えて危ない橋を渡りたがるものだ。フェザーンにいる同盟の人間に近付いてみた。工作員なんていつ捨てられるか分かったものじゃない。逃げ道は確保しておくに限る。機密情報を携えて政治家に渡せば、悪いようにはされないだろう。
同盟の役人(公務員って言うのか)とはどうも頼りない。貴族のみたいに何をしでかすか予想がつかない。もちろん悪い意味で。貴族は暴力や陰謀。同盟の役人はもっとネチネチしたもの。まぁ、自分の利益で動く人間は動かしやすくていい。
おいおい、ユリアン、ヤンのことじゃないんだからそんな目で見るなよ。あれはあれで何考えてるのか分からないじゃないか。
役人はどこの国でも変わらないってことだ。ちょっと良い思いをさせたらすぐに吐いてくれた。同盟の愚痴を。愚痴は大事さ。内情を推測するのに役に立つ。なぜなら本音だからだ。意識しないで吐いてくれる本音は信用に足りる。だから、潜り込む時には安易に愚痴も言えない。同業者はおかげで見分けがつきやすくて困る。
それにしても制度や政治家の愚痴ばかりでさ、どこも同じかと思って参った。同時に誰か強い権力者がいることの察しはついた。国民を味方につけ、運は出来る限り自力で味方につける。貴族に比べたらマシだろうが、政治家としてはクズだな。本当に良い政治家なら、選挙のたびに泣くしかないご婦人を増やさないだろう。
腐った民主主義と中身がそもそも腐っている専制政治。どちらがいいかなどあの時は答えが出なかった。ヤンなら腐っても民主主義と言うんだろうな。国民を裏切り、税金を賄賂に使う。片方は自分の好きに政治を動かし、生まれ持った階級に縋る。道徳的にみたらどちらも悪なんだが、生きるための選択肢が二択しかないとは。
うん、フェザーン?あそこはトップのルビンスキー以外は良いぞ。だが、亡命する際には名前があがらなかった。
あそこは戦争で「我関せず」でありながら、利益を出している。悪いが戦争で利益を出す国は存在するんだ。戦争がなくならない限りは。自分が戦争をする立場にならず情報や戦艦を売る。フェザーンはその理想に位置するんだ。それが癇に障る。国民はそんな意識はない。もし俺がルビンスキーなら、両国のバランスを保ち、戦争が長続きするように手引きする。最後は両国の共倒れが理想的かな。
フェザーンに亡命していたら、その為の駒に使われていた可能性がある。絶対に嫌だ。生き残るために汚い仕事をまたやるんだぞ。それに仕事でいったことがある場所ということは、顔見知りがいるってこと。顔隠してたら生活にならないでろう。危ない面倒な橋は渡らない主義でね。
ふ、フレデリカ!?いつからいたんだ。珍しく俺が昔話してるんだ、ちょっと付き合え。
そういうわけで自由惑星同盟に来た。あの時の役人の目は腹が立った。そこらのゴミをみてるようなあの眼には。シェーンコップもあれを見たのかと思うと笑い話なんだが。悪い事ばかりではなかったさ。民主主義を口で言っているだけあって、言動の自由とか表現の自由とかあって面白い。自由って今までは記録やルールの中で確立するものだと思っていたが、良い意味の自由が決まってるのもアリだ。建前だけかもしれんが、軍人同士でも対等なんだから。上司と部下で食事なんて帝国じゃなかったから驚いたんだ。あれはいいよ。
あぁ、嫌な事を思い出した。俺が同盟に来たのは最近って言ったら可笑しいが遠い話じゃないんだ。あの演説だよ。薔薇の騎士に入りたくないと揉めていた時期さ。気まぐれに散歩していたら、少し先で車が止まったんだ。興味ないから無視しようと思ったら、視界の端に変な奴がいた。明らかにそいつが何かやると思って立ち止まった。車から出てきた人物に向かって、奴が包丁片手に襲いかかった。反射的に持っていた生卵を投げ飛ばした。俺の夕食の材料。
その先は予想がつくだろう。助けちまったのさ、ヨブ・トリューニヒトを。これをあいつは政治の材料にしやがった。帝国の亡命者が自分を助け、今では同盟軍人を志願していると。薔薇の騎士に入らずに済んだのは良かったが、演説の席が「エル・ファシルの英雄」の横だぞ。居心地が悪かったな。あの時にトリューニヒトが死んでいれば。
え、なに。シェーンコップが戦斧が折れてる理由を聞くための探してる?フレデリカ、それを先に言えよ。あぁ、折った理由なんかないんだよな。

ふらついた足取りの女帝にユリアンとフレデリカは苦笑いしか出なかった。
アッテンボローの警告を無視してアルコールを飲ませた本人であるポプランはユリアンを捨てて逃亡。残されたユリアンはカーチャルの愚痴を聞かされていた。
「愚痴は言うもんじゃないと自分で言う割には、言い放題でしたね。」
「それも民主主義の良い所よ。彼女の場合、どこまで事実か分かりにくいけど」
確かに帝国でこんな愚痴を言ったら、国家反逆の罪に問われそうだ。

〜あとがき〜
トリューニヒトの話は事実で、ここからヤンとの出会いの話が始まるわけです。あいつが恋のキューピット。え、遠慮したい。

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