短編 | ナノ


バスタイムは二人で


ラインハルトはそう言われたので、姉上を思い浮かべながら「あぁ」と答えた。
ミッターマイヤーはそう言われたので、事実に基づき「あぁ」と答えた。
ロイエンタールはそう言われたので、楽しそうな「あぁ」と答えた。
この三人の中で、彼女が聞きたかった答えを言えたのはミッターマイヤーぐらいだろうか。端からしてみれば、どの三人も何か違うように思えたのだが、誰一人として指摘はしなかった。
彼女の質問はフェルナーにも当然のようにやって来た。ミュラーに来なかったのは、彼女が失恋話を知っていたからだろう。
お題は「今でも誰かと風呂に入るか」である。
フェルナーは口説いた女性と風呂に入ることを思い出し、先を考えずに「あぁ」と答えた。
これを聞いたマーティルダの反応は、やはりと言ったもので、かなり落ち込んでいた。

「そっか、私には魅力がないのね」
「そう言う問題じゃなくて、オーベルシュタイン閣下の場合は必要性を考えるのではないか」
「必要性がない!?
な、なるほど。私とのバスタイムは何の価値もないと」

自暴自棄になりかけているマーティルダ。
しかし、一緒に何かするからといい、何かを生産するわけではないので、フェルナーは黙って聞いていた。まず、オーベルシュタインのバスタイムが想像がつかない。

「色仕掛けってやつがいるのかな」
「脅せばいいんじゃないか」
「なるほど。」

冗談のつもりが納得された。本当に脅しをするなどマーティルダがやるはずがない、この前提がそもそも間違いだった。
ここまでの話から、マーティルダはオーベルシュタインを風呂に誘う方法を考え、迷いなく実行に移した。
まずはじめに駄々をこねる。帰宅してすぐを狙い、軍服を引っ張りながら泣きついた。しかし、平然と無視をされる。
二つ目はすでに下着のまま駄々をこねる。これは目も向けて貰えずに、マーティルダの方が落ち込んでしまった。
三つ目は「もう、フェルナーと風呂に入った方がマシだわ!!」と叫んでみた。ちょうどオーベルシュタインがフェルナーに仕事の連絡を入れ始めたため、マーティルダは勘違いして青ざめた。
四つ目は「溺死してやる」である。言い終えてから、あまりにもくさい台詞だと気づいた。到頭、手で払われてしまった。
さすがのマーティルダもこれには堪えられなかった。床に座り込んでいじけ始める。本来ならかなり引くような展開だが、そこで引きもしないのがオーベルシュタインである。
やっと書類から目を離したオーベルシュタインは、そもそもの前提を覆す発言をした。

「ここの湯槽は二人で入るには狭すぎるが?」

オーベルシュタインが必要最低限にした結果がこれである。
聞いたマーティルダは、自分がしていたことの意味がわからなくなった。

「じゃ、じゃあ私の家に!!」
「実家嫌いではなかったか?」
「あぁ!!こんなときぐらい頭が働かないの!?
っちゅん!!(くしゃみ)」

寒くなったマーティルダは、服を着て座り込んだ。直進したら考えることより行動をする彼女の、個人的望みの中で最大級の失敗になった。
どうやらバスタイムの夢はどうしようもないようだ。
後に、オーベルシュタインの私邸のバスルームに工事が入った、という噂が入った。あくまで噂である。
これを聞いたグスマンがフェルナーに言う。

「閣下はマーティルダに甘いのではないか?」
「グスマンこそ、今更だな」

オーベルシュタインは犬と見た目子どもには甘いようだ。

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