短編 | ナノ


ドライアイスの誕生日

グスマンもフェルナーもあり得ないと思った。
きっかけは些細なこと。マーティルダがオーベルシュタインの誕生日について話したことだ。そう、祝いたいと言ってきた。上司の誕生日を知らないわけではないが、祝いたいかと言われたら別問題。そもそも、オーベルシュタインのような人が祝ってもらえて嬉しいのか。第一、自分の誕生日を記憶しているかどうかすら怪しい。
命令に忠実なグスマンはマーティルダの頼みに断れず、フェルナーは面白半分で付き合うつもりでいた。しかし、これが意外に上司を守るために大切な仕事ではないのか、と思わされる。大切な休みを潰され、こんな重大な仕事を押し付けられるとは不運だ。
驚愕な買い物リストを二人で眺め、二人で天をあおぐ。
マーティルダの食材買い物リストの中身は、何を作りたいのか予想がつかない。一応、カテゴリごとに区切られているのでメニューはわかるが、メニューと食材が合わない。本人が作りたいもの第一位がケーキらしく、そこだけ気合いが入っていることはわかる。

「強力粉・・・・・・このメニューで本当にいるのか!?
フェルナー、どう思う?」
「多分、彼女のことだから『強そうだから男には強力粉』なんじゃないか?」
「ケーキの欄に中華鍋があるのはなんだ!?」
「ほ、欲しいだけじゃないのかな、単に。
例えばオーベルシュタイン閣下の後頭部を」

ぶん殴ると続けたかったが、相手がグスマンだったのでやめた。こういう冗談がきく人ではない。嫌われるのは構わないが、あえて誤解を招く必要はあるまい。
とりあえず、このリストのまま買うべきか買わざるべきか。自己判断力に乏しいグスマンの意見は期待していないフェルナー。彼は独断でこう決めた。
ケーキだけは成功させよう。あとは闇鍋でいい。

クラッカーが30個見つかり、そんなに身体はないと嘆いた。とりあえず折り紙で飾りを作るが、彼女は片づけを気にせずに大量生産している。風船を膨らまし、クリスマスの飾りを掘り出し、なぜエンジェルが飛んでいる謎の光景が広がっている。可愛らしい飾りを持ち出しては飾っているが、オーベルシュタインには似合わないのではないか。まず誕生日パーティー自体が似合わない男ではある。

「うーん、何が足りないのかな。ケーキがあればそれっぽくなるか。
よーし、ケーキ頑張るぞ!!噂をすれば来た!!」

普通のパーティーの買い物の二倍を担いで、フェルナーとグスマンはやってきた。食べ物だけでかなりの量のなり、絶対食べきれないと思いながら運んできた。無駄にならなければ良いのだが。
二人が厨房に食材を運び、マーティルダはエプロンをしてやってきた。彼女の何気ない笑みが二人の癇に障ったが、ここで大人げない行動はNGだ。

「よし、強力粉よ」
「薄力粉な。」
「なんで?強そうなのに」
「ケーキに強さはいらないだろ」
「オーベルシュタイン様はちょっと強くならないと駄目じゃない?」

納得はできたが、ケーキにはやっぱり関係ないと思う二人。
予熱を知らないマーティルダがスポンジケーキをトンカチにしてみたり、何故か苺を切る度に潰してみたりするなか、フェルナーとグスマンは狭いエリアでひっそりと鍋を作っていた。ケーキをメインにしているはずのマーティルダが、それ以外の食べ物にまで被害を出し、作られるものが鍋になっていたのだ。職業軍人の二人がうまい鍋を作れるはずがないが、マーティルダもうまいケーキを作れるとは思えない。そう思えばいいような気がした。
マーティルダがホイップクリームを巻き散らかした頃、鍋が様になってきた。時間的にオーベルシュタインも帰宅するだろう。結末が見れないのが無念だが、フェルナーとグスマンは退散することにした。結果はマーティルダに聞いてみればいい。クリームを頬について動揺しているマーティルダに挨拶をして、さっさと二人は抜け出した。
二人がいなくなったことに気づいていなかったマーティルダは、慌てて時計を見て驚く。そして、つくってもらった鍋を食卓に運ぼうとする。持ち上げられなかった。執事とはこんなときに便利なもので、鍋を運んでもらい、彼女はオーベルシュタインを出迎えた。頬にクリームがついたままで。

「お帰りなさいませ!!そしてハッピーバースデー!!」
「・・・・・・」

どういう意味の沈黙なのか、理解するには難しい。

「残業があるからアルコールは控えたい」
「え、もうグラスに移しちゃいましたよ?飲んでくれないんですか?」
「・・・・・・」

この沈黙もどういう意味なのか、理解するには難しい。
流れを作ったマーティルダは、オーベルシュタインを食卓に放り込み、鍋の前に座らせ、クラッカーを片手に自分も座った。そして、かなり至近距離でクラッカーを使用した。鍋に紙吹雪が入った気がしたが、気がしただけだと思うことにする。
鍋がなくなり、これでメインのケーキが登場。マーティルダは、自分でケーキを持って来るために席を離れてた。冷蔵庫に入った歪なケーキを、両手で楽しそうに大切に持ち上げて持ってくる。
しかし部屋に入ると、自分が用意した風船に足を滑らせ転けた。ケーキを床に落としたのではなく、マーティルダが顔面で潰したのだ。
手元で潰れたケーキと自分の顔面に理解できなかったマーティルダは、オーベルシュタインの顔をしばらく見つめてから悲しみが襲ってきた。それを見たオーベルシュタインは、執事に何かを囁いて何かを持ってこさせた。
普通のショートケーキだ。

「・・・・・・!?なんか、、悔しい!!」

こうしてケーキをオーベルシュタインより食べたマーティルダであった。
いったい誰がメインなのか、外野にはわからなかった。

※よいこの皆さん、クラッカーは人に向けて使用してはいけません。
〜あとがき〜
私はパーティーが苦手なので、誕生日会はよくわかりませんが、誕生日といえばハプニングでは?
まあサプライズも苦手なのでよくわかりませんが。(笑)
ちょっと、フェルナーとグスマンを巻き込んで、鍋の感想はないというのが可哀想かな。

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