第16話 四つ目のクリスタルは 1/3
四つ目のクリスタルがある場所に、生きる者なら立ち入れない。死した者も再び死ぬやも知れない。死者の都にあるクリスタルを破壊することは、生きる者には不可能に等しい。
はじめに異変に気づいたのは誰だっただろう。死者の世界には優秀な人材が多すぎる。
かつての老師と言われた男か。しかし、この男はクリスタルに興味を示さなかった。野望を果たすなど出来もしない今、クリスタルは無意味な石に過ぎないと感じていた。
別の場所に、戦友達と酒を酌み交わしていた一人の白魔導士がいた。竜騎士のどうでもいい笑い話や禿げの娘の自慢話、王子になり損ねた彼の市民生活。やるべきことを終えた彼らは、死んだ後ぐらい平穏を望んでいた。
白魔導士ミンウは、奇妙な気配のせいで酔いが覚めた。どこかで、何か妙な力が働いていると。それが自分達の平穏を脅かすものであることに感ずいた彼は、戦友達が眠った後に動き出した。自分の勘違いなら良し。しかし、再び彼らを巻き込もうとは思わなかった。
死者の世界には、夜になろうと魔物は出ない。皇帝がいた頃は多くの魔物で溢れていた。
ミンウは適当に荷物をまとめて、夜の死者の世界を歩き出した。このとき、別の場所で三人の戦士も歩み始めていた。
一つの異様な気配を辿りながら、ゴールの見えない旅をすることには慣れている。しかし、これなら強い敵が出てくる方が楽だと感じだ。
夜が明けて、本を買うために街中を歩いていたミンウは、街を見ることに集中しすぎて何かにぶつかった。

「ごめんなさい」
「いえ、大丈夫ですかお嬢さん」

ピンクのリボンに、花の入ったワゴン。決してワゴンは出来が良いとは言えない。
花売りの女性は、ミンウに頭を下げる。これは何かの縁だと思ったミンウは、花を買おうと決めた。金なら本代が残れば充分だ。

「一輪頂けますか」
「はい!!10ギルです」

一輪の花のわりには高い。そういう思うが、彼は言われた通りに払うことにする。ぼったくられた気がしないこともない。

「あの、旅、してるんですか」
「はい。どうかなさいましたか」
「もし、ザックスという人に会ったら、渡してもらえますか。渡しそびれてしまって」

彼は花売りの女性からポーション20個を受け取った。
普通ならポーション1個を届けるイメージがあった。彼は、やはりぼったくられた気がした。いや、商売上手なのだと思いたい。
ポーションのせいで荷物が重くなり、力の低い彼には負担になる。
酒場の前を通り過ぎようとした時、風を切る音がしたため立ち止まる。すると、自分に向かって酒のビンが飛んできていた。避ける暇がなく、ミンウは顔面でビンを受けた。鼻が曲がると思うほど痛かった。
飛んできた方向を見ると、体格のいい大人二人が揉めている。いい歳した大人が何を揉めているのか。

「白いあんちゃん、悪いな。こいつが融通きかねーもんで」
「ジェクト!!」

肌が黒めのジェクトと言われた男は、頭を掻きながらミンウに頭を下げてきた。片眼の男まで一緒に頭を下げてくる。そこまでしてほしいとは思わなかったミンウは、少し居心地が悪くなった。どうやら今日は災難な日らしい。
ミンウは喧嘩の仲裁などやる気はないし、二人が仲が良いことぐらい容易に見抜いている。ビンが飛んできたことは放っておくとして、さっさと先に進もうとした。
片眼の男は、ミンウが持つ大量のポーションが気になった。魔導師が持つには、重すぎる大荷物である。

「どこまでいくんだ。詫びに持つ。」
「妙な気配を探るついでに、ザックスという人にポーションを届けに」
「お前、いく気か?」
「ジェクトは来なくていい。それより俺はアーロンだ」

来なくていいと言われたジェクトは、仕方がなく続きを飲むことにした。ポーションを運ぶだけに二人もいらない。一人で飲むのはつまらないと思いながら、死後の空を見上げた。
 TOP 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -