愛しい師匠 | ナノ


▼ 11.冷蔵庫の牛乳

入隊試験というのは簡単なものだ。問題はトリオンの量。
その問題の中に、真の悪であるか否かは問われない。
入隊試験に来た別役太一は紙パックの牛乳を持ち、走っていた。試験に遅刻寸前だったのだ。
曲がり角で人に気づかず、別役はぶつかってしまった。手にしていた紙パックの牛乳は宙を舞い、ぶつかった人の頭からかかる。
目付きの悪い人だ。別役は大変な真似をした、と騒ぎ出すところだった。

「騒ぐな。
入隊試験を受けに来たんだろ?早く行け」

別役は雰囲気に負けて、言われた通りにする。
残された目付きの悪い人は、牛乳で濡れた体を眺めるが立ち上がらない。
立ち上がれなかった。皮膚の痛みが収まる様子がない。
そのまま、倒れこむ。体が重い。
如月は痛い体を起こすように努力した。

「だ、大丈夫?」

聞き慣れた声だったが、顔を見るより先に目を閉じてしまった。
次に目を覚ました時は、ベッドの上だった。頭が痛い。
起き上がり右腕を見た。かぶれが酷い。牛乳が原因だろう。
横で菊地原が寝ていた。聞き慣れた声の正体だ。耳の良さのおかげで助かったらしい。

「菊地原、起きろ」
「起きたの?
うわ、肌荒れひど」
「アレルギー反応だ。
乳製品がダメなんだ」
「死なないの?」
「・・・・・・死んでほしいのかよ。
食品アレルギーってにゃ、段階がある。
少量なら食えるやつ、少量でも駄目なやつ。調子次第でいけるやつってな。
少量なら食えるが、皮膚のつくのはさすがに無理だったか。」

肌荒れ箇所が痒いのか、しかめっ面ばかりする如月。
塗り薬や飲み薬を普段は持ち歩いていない。自分から乳製品を食べないからだ。
頭から乳製品を被ることも普通はない。
頭皮も危ないだろうと感じた如月は、髪に触れた。

「救護室か。
菊地原、少し部屋から出てくれ。
あと少し寝れば問題ない。」
「心配してないからさっさと出てくよ」

そう言うが明らかに心配していたのだろう。記憶違いでなければ二時間は寝ていた。
救護室をあとにした菊地原を見て、如月は携帯を開いた。

「あ、私。ごめんなさい、出掛ける約束してたのに。実は・・・・・・」

壁越しから十分に聞こえていた菊地原は、鞄に入れていた紙パックの牛乳をゴミ箱に投げ捨てた。
雲行きの怪しい空を見て、何か似たようなものを感じていた。
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