19th:二人の世界から

君と過ごす日々に
どんどん人間になっていく錯覚を起こすんだ。








「カヲルー」
「呼んだかい?」
「うわ!?」

上から聞こえてくる声に変な声がててしまった。

「階段上から声をかけられるとは思ってなかった…」
「驚く音羽も可愛いね」
「もうそんな言葉でいちいち照れないわよ?」

そう。
慣れてしまうくらい言われ続けたのだ。

「そう?照れた顔が可愛くて言ってたのに」
「…くっ」

照れてたまるものかと思わずそっぽを向く。
するとカヲルが隣に降りてきた。
飛び降りるという形で。
それはダンッ思ったより激しい音を立てた。
ふわりと降り立つものかと想像したタメ語思わず目を見開く。
それはカヲルもだったらしく彼も目を見開いた。

「力がでない…?」
「前は出てたの?」
「この前までは普通にこの高さで浮いたよ」

音羽には隠す必要なんて何も無いためカヲルは正直に話す。

「……」

『永住の可能性だって…』

「…っ!」

この前希美が言っていた言葉が頭の中で浮かび、それを払うように音羽は顔を振った。

「音羽?」
「う、ううんなんでもない。て事はあの高さ結構足痺れたんじゃない?」
「うん、それなりに」

こんな衝撃を受けるものなんだね。と笑うカヲルを見てなんでか解らないけど愛しくなった。

「じゃあもう少しここでゆったりしてようか」
「ありがとう」

非常口の階段。
その下。
まあ所謂中庭のようなもの。
休むのには持って来いだ。
サワサワと流れる木々のさえずりとか
静かにしていれば鳥の鳴き声が聴こえる。

「音羽」
「んー?」
「好きだよ」
「うん、わたしも」
「そうじゃない」
「ん?」

何が。とカヲルの方を見れば真剣な眼差しを向けられる。
そして直ぐに目を逸らされた。

「…もう1ヶ月経つね」
「…そうだね」

あれから特に特別なことも無く。
ゆったりとした時間が流れていた。

「……さっきみたいな事が起こると、人間になっているんじゃないかって錯覚するんだ」
「……」
「特に音羽といる時はね」
「私?」
「うん」

感じたことのない感情をいっぱいくれる。
なかったものが満たされていく感覚。

「君に出会えて本当に良かったと思う」

本当に人間になっていく感覚。
僕らのいた世界と
ここの世界は違う。
本当に人間になったのではないだろうか。
そう思えば気持ちがいつもより跳ねる。
嬉しい。

「使徒じゃなくて人間になれたら…僕はずっと音羽といられるのかな…」
「!」

カヲルの言葉に音羽は泣きそうな顔をする。
それは
ここ最近ずっと心の隅に置いていた本音。
そうなったらいいのに。
そうなってくれたら
言えるのに。
そんな気持ちがぐるぐる回る。

「…っ、そう、だね…」

お互いが
お互いの顔を見ず。
そっと触れた指がそのまま絡む。

「一緒に、居たいね…」

お互いに
言葉遊びを自分の中でしていて。
ごちゃごちゃになっていて。
本当はわかっているのかもしれない。

でもそれは自分の都合のいい話だと自分を傷つけないように壁を作る。





音羽は僕の事が本当に、そういう意味で好きかもしれない

カヲルは、私の事が、本当にそういう意味で好きかもしれない。


でもそれは


きっと私(僕)の都合のいい頭がそう思わせているだけで
本当はどうかわからない。










「あれ、カヲルと音羽は?」
「音羽がカヲルくんを探しに行ってそれっきりだよ…」
「ふーん…」

希美は口の中で飴をコロコロと転がす。

「…シンジはどう思う?あの二人」
「じれったいよね」
「あ、やっぱそうだよねー」
「どう見ても両想いなのに。カヲルくんも、音羽も」
「カヲルも思ったより子どもっぽいなあ…」

じわじわ自分を侵食させてても
それを本人がわかってないんじゃなんの意味もない。

「…ま、客観的に自分の気持ちや相手の気持ちを見れてないってことはそれだけ本気なんだろうけど」

恋をすれば人はなぜか弱くなる。
人の恋には、今がチャンスだ。行け。等と言ってしまうというのに。

「…ねえシンジ」
「ん?」
「こうなったらもうあの子らのプライドぶち破って素直にさせてやりたいと思う」
「う、うん…?」

シンジは嫌な予感しかしないなと苦笑いを零した。

「今まではそれとなーく見守ってきたけど…やっぱり客観的に見るにはお互いの素直な反応。よね♪」

ニヒリと笑う希美は
それはそれは楽しそうだった。

「何をするの?」
「簡単よ。今まで二人の世界真っ只中。って感じにさせたけど…第三者。入れるの」
「…誰が?」
「簡単よー、だってもうすぐ体育祭…ふふ」
「……はあ…」

希美もこうなっては帰ってこない。
シンジはため息をつきつつも、そんな彼女が可愛らしく見えてしまうんだからどうしようもないと微かに笑みを浮かべた。






to be continue.
2016.09.12.

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