17th:そんなの知るか

届いてくるであろう響きに耐えるための準備をする。
と言っても、耳を塞ぐだけなのだが。
いやほんと、あの理事長はやってくれるもんだと思う他ない。

「渚カヲルです。宜しく」
『きゃあああああぁああぁぁ!!』
「女子うるせー」
「イケメンがくるとこれだよ」

男子の意見に激しく同意である。
だが君達も私が来た時に新鮮だかなんだか言ってなかったか。と入学式を思い出す。
結局はそういうものなのだ。

「前も見学きてたから予想ついただろう女子共よ…じゃあ渚は楠木の隣の席な」
「はい」

カヲルがこちらに来るまでの間女子から声を何回か掛けられる。
よろしくねとか後でお話聞かせてねとか。
変な嫉妬がでてきてしまう。

「どうしたんだい?音羽」
「なんでもないよ、制服似合ってるね」

あの後お父様とシンジが制服を取りに行ってくれていたので今日は無事に制服姿での登校だ。

「そうかい?音羽にそういってもらえると嬉しいよ」

カヲルは隣の席に座っても前を見ることなく音羽の方を向いている。
なんだか不思議だ。学校で彼が目の前にいる事が。

「理事長に感謝しなくちゃいけないね」
「へ?」
「音羽と同じクラスにしてもらえたし」
「うん…そうだね」

それに関しては正直嬉しい。
高校にしては珍しく隣の席とはくっついている。
そもそも端数で1人だったから別に構わないのだが
カヲルならば隣でも安心できる。

「それは嬉しいよ」

そう言って音羽は素直に表情に現した。
カヲルはその音羽の顔をみて自分もとても嬉しそうに笑みを浮かべる。
こんな些細な言葉と表情でさえ互いに愛しさで胸が締め付けられる。

「音羽、教科書を見せてくれないかい?まだ来ていないらしいんだ」
「うん、次は現国だね」

君が隣に居て
こんなにも穏やかな時間が流れる。
これが幸福なのかと実感をして、また胸が締め付けられた。








「んで、自覚したはいいけどどうやったら諦められるか。と?」
「うん…」

昼休みの屋上。
カヲルとシンジは理事長に呼び出しをくらっている。
その間希美に昨日自覚した気持ちを話した。
希美は音羽の顔を見ると盛大にため息をついた。

「そもそもなんで諦めようとするのさ?」
「だって住んでる世界が違うし…」
「それって今と関係ある?」
「…」
「今すぐ、カヲルとシンジは消えちゃうの?」
「…わからないよ、そんなの…」

いつ消えるかなんて
考えたくもない。

だから今のうちに
この気持ちを消して別れる時に少しでも楽にしたいの。

「永住の可能性だってあるじゃんか」
「永住…?」

そんな都合のいい話なんてあるのだろうかと音羽は考え込んだ。

「そもそも、カヲルだってどう見たって…」

希美はポツリと呟いて昨日の夜から先程までのカヲルを思い出す。
音羽を見る目が明らかに変わっている。
シンジですら気付いているというのに。
この子は気付かないというのか。
カヲルも隠しているのか隠す気がないのか。
それとも音羽だけにバレないようにして周りに自分以外触れさせないと訴えているのか。

「希美?」
「っだー!だめだ、こういうのは考えた所で無駄!告れ!」
「はい!?」
「そもそも当たって砕ければ早く諦めつくんじゃないの!?」
「ごもっともだけどこっちでの私とのそういう記憶はカヲル達が向こうに戻った時…」
「知るかそんなの!言ったモン勝ちだ!」

希美は音羽を指差しながら言い切る。

「そもそも言わないままでとかの方が後悔するんじゃないの?」
「う…」

希美の言っている事は最もだ。
そんなのわかっている。

「うう、重いなあ…」
「こっちの世界ではパソコンではなく本を使うみたいだね」
「あ、おかえり二人とも」
「ただいま」

二人の手にあったのは入学式の時に苦労して持って帰った教科書の山がある。

「うわあ…相変わらずすごい量」
「あはは…」

希美は思わず呟いていて、音羽は苦笑いを零すしかなかった。

「もうお昼は食べ終わったのかい?」
「ううん、カヲル達が帰ってくるまで待ってた」

二人が荷物を置くと音羽は弁当を広げる。

「料理長が作る量が増えてやりがいがあるって喜んでたよ」
「料理長とかいるんだね」
「まあやっぱりそれなりの家だからね…」

後継娘としては少し荷が重いけど。なんて音羽は苦笑いを零した。

「音羽が継ぐのかい?」
「うん、本当は息子がよかっただろうに…なんて気持ちもあるから、きちんとしなきゃね」

そう言って笑う音羽は前ほど険しい顔をしなかったものの、まだ後継ぎとしての意識が強いのか少し顔を強張らせる。
まあ、前はもっと険しかったのだが。

「ちょっとカヲル」

希美がカヲルの裾を引っ張り近く。
カヲルは不思議そうに首を傾げた。

「あんたの音羽への態度って ワザとなの、それとも無意識?」

希美の言葉に少し目を見開いて、けれど直ぐに笑みを浮かべる。

「さあ?」

君が先に気付いたか。なんて顔をして笑うものだから希美は苦笑いを零した。
ワザとだと確信を得たからだ。

「音羽、それを食べさせてくれないかい?」
「へ?」
「本を持つのが長くて少し手が痺れてしまって」
「ああ、そんなに重たかった?」

後で半分持つね。なんて言いながら音羽はカヲルの口へと食べ物を運ぶ。
所謂、はいあーん状態で。

「…これをやらされてて気付かない音羽も音羽だわ…」

いや逆に当たり前になっているからこそ気付かないのかもしれない。
…当たり前?

「あ」

希美の出した声にシンジは不思議そうに希美を見た。

「どうかした?」
「いや、うん…ちょっと」

この恐ろしい思考がただの的外れだといいんだけど。
なんて思いながらカヲルを見るとこっちに気付いたらしく視線が合わさる。
まさかね、なんて思っていたせいか見事に顔がヒクついた。
そしてそれを見たカヲルは満面の笑みを希美に返すのだった。

「うわ…」

どうやら当たりだ。こいつ、じわじわと音羽の心を占領していく気だ。
なんと恐ろしい。

「ここに留まる方法でもあるのかねえ…」

それとも
自分の存在を彼女に刻み込んで縛る為か。

「どちらにせよ怖いな」
「希美さっきから何をブツブツ言ってるの?
「お子ちゃまシンジにはわからないこと」
「なっ確かに希美よりは年下だけどそんなに変わらないじゃないかっ」
「あーはいはい」




せっかく立ち直った彼女に


再び傷ができない事を切に願った。





to be continue.
2016.9.10.

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