白澤様の鬼付き人。
「ごめんください、なまえさんはいますか」
「はーい、ちょっと待ってください!」
シャラン、と鈴の音と共に暖簾の奥からなまえの姿が現れる。
「鬼灯様!!お久しぶりです!」
「元気そうにやってますね」
「えぇ、おかげさまで」
これお土産のお団子です。
鬼灯の手から渡されたのは今地獄で人気の甘味屋の団子だった。
「わぁ!これずっと気になってたんです!」
今お茶入れるので、よかったら鬼灯様もどうぞ。
ニコニコと笑いながら鈴の音が去っていくのを見つめながら鬼灯は椅子に腰をかけた。
「───────あ!お前何でいるんだよ!!」
「うるせぇ白豚殺すぞ」
暖簾の奥から再び現れた人影に目を向ければ次は白澤の姿。
思わず大きなため息。
「この間頼んでいた漢方を取りに来た序でに、なまえさんの様子を見に来たんです」
「別に見に来なくたっていいっつーの!」
子供のように舌を出しながら睨みつけてくる彼の様子を見ながら思わずもう一度ため息。
「なまえさんは大丈夫そうですか」
「まぁね、偶にあの事件の夢を見るみたいでうなされたりはしてるけど、僕が傍にいるし」
「あなたが彼女を襲った時の夢ですか?」
「ちっがうよ!!」
たく、相変わらず痛いところを突いてくるよね。
ブツブツと頼んでいた漢方薬を詰め始める白澤の姿をボーッとしながら見つめていた。
「悔しいけれど、なまえさんはあなたといる方がいい顔していますね」
「悔しいってどういうことだよ」
「いや、あなたがいなければ私が彼女の隣にいたのですが」
「ちょっとまてえええええええ!?」
油断も隙もあったもんじゃないよ!!
ぎゃーぎゃーと喚き散らす声と共に暖簾の奥から再び鈴の音が聞こえてくる。
キラリと光る桜の花びらとともに美味しそうなお茶の香りが漂ってきた。
「白澤様何騒いでるんですか、うるさいですよ」
「なまえっ!!今度からこいつに近づいちゃだめだからね!!」
「なんでですか?」
頭の上にハテナマークを浮かべながら、なまえがテーブルに三人分のお茶を置いていく。
あからさまに不機嫌な様子の白澤がドカリと椅子に座るのを見ながらそのお茶を口につけた。
やっぱり、彼女が淹れたお茶は美味しい。
あれから、なまえは派遣としてじゃなく、正社員として極楽満月で働くこととなった。
短い間で地獄で受け持っていた仕事に関しては鬼灯が全て引き継ぎ、これからは極楽満月の職員として。そして、白澤の恋人として。
仕事ができるなまえがいなくなってしまうのは、少々痛いところだが、今の方が彼女らしい顔をしている。
「…幸せになってくださいね」
「ん?何か言った?」
「あなたの顔がとんでもなく不細工だ、と言ったのですが聞こえなかったですか?」
「あぁ!?なんだとこら!!!」
これからは、彼の傍で、ずっと。
*******
窓を開ければサァッと吹き付ける風が桜の花びらを部屋の中に運んできてくれる。
ベッドに腰をかけながら手のひらに落ちてきた花びらをフッと息を吹き付ければ、ひらひらとそれは舞い落ちていった。
「白澤様?夜は冷えるんですから、窓を開けてたら風邪引きますよ?」
「なまえ」
風で崩れるのを防いでいるのか、手で髪飾りを押さえるなまえにおいで、と手を出せば少しだけ恥ずかしそうにその手をとった。
そのまま隣に座らせれば、温もりが伝わってきて、思わず頬が緩んでしまう。
「なまえ、少し目をつむっててくれる?」
「…はい、?」
言われるがままに目を瞑れば、シャランと髪飾りの鈴が鳴り、長いまつげが揺れて思わず胸が高鳴った。
あぁ、なんて可愛いんだろう。
って、そうじゃないだろこのろくでなし野郎。
胸ポケットから小さな青い箱を取り出してそれを開けた。
中の物を優しく出して、目を瞑るなまえの左手を取り、薬指にそれをはめた。
「もういいよ、なまえ」
「っこれ、」
ゆっくりと目を開けて、それを見たなまえの瞳が小さく揺れた。
「結婚を前提に、僕の恋人になってくれませんか」
空に浮かぶ月が、その小さな指輪を照りつけて輝いた。
「っふふ、結婚とか無責任な発言はしないって昔言ってませんでしたっけ」
「なまえは別だよ。君以外の女なんてもう興味ないよ」
茶化すようにクスクスと笑うなまえの笑った顔にドキン、と胸が高鳴った。
なんてキレイに笑うんだろう。
「僕の奥さんになってくれる?」
「はい、喜んで」
ふわりと笑うなまえの口に、ゆっくりと口付けをした。
少しだけ恥ずかしそうに顔を赤くするなまえを抱き寄せて。
「愛してるよ、なまえ」
「あたしもです、白澤様」
キレイに咲き乱れる桜が、僕たちを祝福するように花びらを舞い散らせた。
白澤様の鬼付き人!
「そういえば白澤様この前あなたの姿を色町で見たって鬼灯様が」
「え、ちょ…まって誤解だって」
「どういう事か説明してもらってもいいですか?」
「ごめん、ごめんてばっ、ぎゃ────!!」
今日からあなたの恋人。