自覚した気持ち


「どこ、どこっ…」

地べたに這いつくばって草をかき分ける姿。
周りから見たらきっととても浮いて見えるんだろうけど。
人通りがないのが幸いで。

「っ、どこぉ…っ」

涙がボロボロとこぼれ落ちる。
なんでないの、どうして。
昨日まではあったのに。
なんでよ

「─────、っ」


あたし、どうしてこんなに必死になって探してるんだろう。
あんなにひどいことされたのに、そんな人からもらった髪飾りなのに。
なんでこんなに動揺してるのであろうか。
そこで、ふと頭をよぎった。
─────ごめんね、なまえ。

「っ、あ…」

シャランと聞き覚えのある音と一緒に聞こえた声。
夢の中だと思って気にしていなかったけれど。
もしかして、あれは、あの声は。

「…白澤、さま」

ゆっくりと立ち上がって走り出した。
あの髪飾りを持っていったのは、

「────なまえさん!!」
「っ、」

そんな時だった。
聞き覚えのある低い声。
振り返れば、息を乱して、汗だくになりながらこちらに向かってくる影。

「ほ、ずきさま…」
「何してるんですか!まだ体調も良くなってないのに!」
「っ離してください!!だって髪飾りがっ」
「髪飾り…?」
「髪飾りがなくなったんですっ」

そこで、鬼灯様がぱっと手を離した。
同時に我に返った。

「っすみません、取り乱して」

はぁ、と鬼灯様が溜息を吐いた。
そして、少しだけ考え込むように俯く。

「取り敢えず、閻魔殿に戻りましょうか」


*****


コトっと机に湯気の上がったマグカップを置いた鬼灯様が、椅子に座った。

「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」

もう一つのマグカップを受け取る。
中には甘いココア。
鬼灯様をじっと見つめれば、何事かと首を傾げられた。
ちなみに鬼灯様のにはホイップクリームが乗っていた。

「なまえさんもホイップ乗せた方が良かっですか?」
「いえ、大丈夫です」

温かいマグカップに口をつけると、甘い香りが鼻をくすぐった。

「なまえさん、一つ聞かせてもらってもいいですか」

鬼灯様がゆっくりとこちらを見た。

「どうして、あんなに必死に髪飾りを探してたんですか」
「それは────」

だって、白澤様がくれたものだから。
そう言おうとしたのに、どうしてだろう。
口が開かなかった。
どうしてだろう、自分でもわからなかった。
どうしてあんなに必死になって探したんだろう。
だって、あんな酷い事をした人なのに。

「言い方を変えましょうか。…あの髪飾りはそんなに大事なものですか?」
「はい、とても大切な物です」
「なら、新しい物を買えばいいじゃないですか」
「新しいものじゃ意味がないんですっ!だってあれは、」
「あの白豚からもらったものだからですか?」

静かに、ゆっくりとした口調で鬼灯様が口を開いた。

「なまえさんにとって、奴はどんな存在ですか?」
「白澤様、の事ですか?」
「はい。あんなに酷い事をした奴からもらったプレゼントなんて、普通だったら放置するでしょう。けれどあなたは、それを必死になって泣きながら探していたじゃないですか」
「それは、だって」
「…なまえさん、あなたは綺麗な人ですよ」
「っ、!」

言葉を失った。
あぁ、あたしはきっと。

「─────好きなんでしょう?白澤さんが」
「…はい、」

白澤様が、好きなんだ。



自覚した気持ち

自分は汚れているから。
そう思って自分の気持ちは押し殺していた。
だってあたしは、人を好きになってはいけない
そう思っていたから。


好きです白澤様

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