信じていたのに。
ざわざわと賑やかな繁華街を抜け、シーンと無音の雑木林にザクザクとあたしと白澤様の足音だけが響く。
「っ、白澤様…離してくださいッ!」
いくら話しかけても返事をしてくれない白澤様に痺れを切らしてバッと手を振り払った。
少しだけ距離をとって、ジッと白澤様を見つめる。
ギロリと鋭い視線を向ける白澤様にゾクリと背筋が凍った。
「…あの、桃太郎さんの仕事なのに勝手にあたしが来たのは謝ります。ごめんなさい。…っでも、だからって閻魔殿のドアを壊す事はなかったじゃないですか。」
今から、鬼灯様のとこに謝りに行きましょう。
少しだけ震える声で、ゆっくりと言葉を一つ一つ紡いでゆく。
心のこもっていないような、軽蔑されたような瞳で睨む白澤様。
「やけにあいつの肩を持つよね。なまえってあの鬼神が好きだった訳?だったら邪魔してごめんね」
「…え、?っ何の事、」
「惚けないでよ。あんな白昼堂々と皆が通る所で見せつけるようにイチャイチャしちゃってさ、それとも何?なまえって男だったら誰でもいいわけ?がっかりだなぁ、もっと純粋な子だと思ってたのに」
一瞬、頭が真っ白になった。
「、っ違います、あれは!」
「言い訳なんて聞きたくないね」
「っ大体仮に鬼灯様とそういう関係だったとして白澤様に関係ないじゃないですか!いつもいつも女の子を取っ替え引っ替えの白澤様に文句を言われる筋合いはないですっ!」
「…っねぇ、ちょっと黙っててくんない?」
ぐらりと揺れる視界。
バタン、と無音の空間に倒れる音がした。
「ッはく、たくさまっ…?」
ジャラリ、と白澤様がくれた髪飾りが地面に落ちる音がした。
目を開けると、白澤様の顔と地獄の空が広がっていて。
ひゅうっと息を吸った。
「いいじゃん別に。最近溜まってたんだよね、ここ暫く女の人と遊んでなかったし」
「、いやっやだ─────」
「それに、なまえって結構可愛いし、僕の相手には丁度良いじゃん」
あたしを押し倒して、自分の襟元を緩めた白澤様が、
「結構いい女じゃねぇか、俺らの相手には丁度良さそうだ」
あの時の顔と重なった気がした。
信じていたのに。
「────いやぁああああ!!」
欲望に塗れたその視線と、咽るような熱さ。
白澤様の姿に、あの時の恐怖がフラッシュバックした。
白澤様は、そんな事をしないと思ってたのに。