許されないんだ。

「いやあ!!いやや!何で妖怪なんぞに手当されなアカンねん!」
「あたしもいやです!!」

大妖怪任侠一家の一室から聞こえるのは、何ともその家にい不相応な陰陽師の叫び声。
外にいた小妖怪達がざわり、とざわめいた。

「若の御命令なんだからしかたないでしょ!!」
「何が若や!妖怪のくせにイケシャーシャーと学校に来てっ滅したる…っがぼ、!」
「ちょっと黙ってて!!」

ゆらのあまりの騒ぎように氷麗がゆらの口を氷で塞いだ。
もがもが、と暴れまわるゆらの様子に思わずため息が漏れる。

「女の子なのにこんなキズだらけ…。しおりが起きてれば治療頼んだんだけど…」
「、えー加減にせんかい!!もうええっちゅーねん!」

やっとの思いで取れた氷を氷麗に投げつけてゆらはバンっと扉を乱暴に開けて部屋を出た。

「くそ…あの娘開き直ってるやん。やっぱりこの屋敷妖怪だらけやし…」

本当に頭に来る。
それに、しおりに関しても。
何でこの屋敷の奴らは、人間である彼女を頼りきっているのか。
そして、何でしおりがこんな妖怪屋敷にいるのか。
わからない。
こんな事になるんなら、天秘体だと分かった時点で無理矢理にでも保護するべきであった。
頑なに拒もうとする理由は一体なんなのか。
────ふと、自分より高い位置から人の気配を感じた。
前に来たときも立派だと思っていた、大きな桜の木の上。

「──────おい、物騒じゃねぇか」

余裕そうに不敵に笑うリクオに式神を構えたのだ。

「…納得出来んかったら撃つ。奴良君は…人間?妖怪…?」

ジッと見つめる。
もしも人間だと答えたのならば、この手を離せる。
だけど、もしも妖怪だと答えたならば───?
自分の、花開院家の陰陽師として倒さなきゃいけない対象だ。

「…昼は人間だが、妖怪だよ。今はな」
「…同一人物なんやな」
「納得いかねーかい、別人みてーだからな」

ふっ、と鼻で笑うようにリクオは月を見上げた。
諦めたような、信じているようなそんな顔で。
少しだけ無言になる。
ゆらは、ゆっくりと自分の式神を下ろした。

「…いや、納得いったわ」

諦めたように、ゆらが呟いた。

「あんたが私を助けるって事が…繋がらなかったんや。
────あんたが奴良君やったら、全部…繋がるんや」

しおりに必要以上に付きまとっている事も。
四国妖怪に襲われた時に、助けてくれた事も。
全部、全部。
左手の式神を解除して、ゆらは小さく笑った。

「妖怪は悪いことするから妖怪。奴良君やったら納得できる。
…何度もありがとな、優しい奴良君」

それは、突然の事だった。
解除しようとしていた式神に何らかの衝撃が走る。
気づいたら、視界は反転していた。

「っ何するんや───!!あんた最低やなっ───!!」
「さっさと帰れ、京都に」
「…今のは悪行やで!帰ってきたら…今の分滅したるっ!!」
「へぇ…楽しみにしとく」

余裕そうに笑うゆらの額にいくつもの青筋が浮かんだ。
畜生、さっさと京都に帰ってやる。
ざぶざぶと池から上がった。
ふと、あることを思い出す。

「…なぁ、奴良君。しおりと、何かあったんか?」
「何か、ねぇ」

言葉を濁すようにリクオが小さく呟いた。
右手に持っている煙管に口をつけて、煙を吐く。

「お前にゃ関係ねぇ事だよ」
「…ホンマ頭くるなぁ、あんたの言い方。まぁ、言えない事なら別に言わんくてもええけど。でもな、奴良君」

ゆっくりとゆらが振り返った。
ジッとリクオを見つめて、口を開く。

「…しおりとあんたの間に何があったのかはこれ以上聞かへん。でも、しおりは私の大事な友達や。例え、何であっても。…泣かせたら、いくら奴良君でも許さへんからな」

じゃあ帰るわ。
じゃーな、奴良君。
そのままくるりと門の方へ振り返った。
その小さくなっていく後ろ姿をリクオはジッと見つめる。

「…オレだって、泣かせたくて泣かせてる訳じゃねーんだよ…。」

弱気な、そんなリクオの呟きは月の光に消えていった。
────なぁ、しおり。
お前に好きだと伝えられたら、どれほど楽になるんだろうな。
一体お前は、どんな心の闇を抱えているんだよ。
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