「これは何だ?」
三成は、廊下に落ちていた紙を拾い上げた。上質な和紙には達筆で女性らしい文字で"三成様"と書かれている。どうやら三成宛の手紙らしかった。三成は普段から自分宛の文は直接渡すようにと従者たちに申し付けていたが、この文は三成の手元へは届かなかった。これがかなり重要な文だとしたらかなり厄介だ。後で従者たちを叱らねばならないと思いながら三成は文を明けた。
三成様
身のほど知らずだと揶揄されるかもしれませんが、私は貴方様をお慕い申しております。
百合
文にはただそれだけが書かれていた。
三成は眉を寄せた。一体誰がこのような悪戯をしかけたのだと思ったが、見るからにこの文字は女だった。
「ここら辺に・・・、あ、や、やだ!!」
後ろから何かを探している様子の女中が現れた。気配に鋭敏な三成でもその気配は掴めず、いきなり聞こえた声に肩を揺らした。女は三成の手にある文を見ると、顔を真っ赤にして奪うようにしてその文を取った。
「ご、ご覧になってしまわれましたか・・・?」
「・・・あぁ」
「恥ずかしい!ごめんなさい!」
女は顔を文で隠して走っていってしまった。三成は逃げるように飛んでいった女中の背を見ることしかできなかった。暫くその場で百合という名前の女中を思い出していた。顔を赤らめ恥じらう姿に悪い気はしなかった。
「三成様、どうかされましたか?」
背中から声がかかり振り向くと、女中を纏めている上女中がそこにいた。ぼーっと突っ立っていた三成を不思議に思い声をかけたのだろう。
「百合という女中が今さっき走っていったんだが」
「百合?そんな女中はおりませんよ」
「何?」
三成は確かに先程、百合という名の女中にあったのだが、上女中はそのような女中は居ないと言う。女中を取り纏めている彼女が言うからにはそうなのだろう。腑に落ちないとは思いながらも、三成は先程の出来事を追憶した。
(奴には気配も足音もなかった。)
三成はそれに気付いて妙に納得した。どうにも目が離せなくて、三成は百合が走り去った廊下を暫くの間眺めていた。