01

16歳は、特別な年齢。
もう、花嫁さんに、なれるから。

ブルーベルも、知っている。実際にその年齢に結婚する女の子など殆どいないことくらい。

それでも、特別に想ってきたのだ。
だって、すきなひとが、まるで王子様のように、どうか花嫁になってと手を差し伸べてくれても、14歳や15歳なら、夢のように幸せに思えても、それは将来の約束にしかならない。
でも、16歳ならその手を取って、そのまま連れて行って貰える。童話の「そしていつまでも幸せに暮らしました」という世界へ。



「これを、君に」

バースデーパーティーで、正一から小箱を渡されたとき、ブルーベルは心臓がトクンと跳ねた。
ラッピングを解かなくてもわかる。このサイズならアクセサリーケース。

もし、ブルーベルが思った通りのものなら、ブルーベルは今日、世界中のどの16歳の女の子よりも、幸せになれる。
夢のよう。でも、<まだ>16歳になったばかりの、少女のブルーベルには、想像したプレゼントは早過ぎるとも思うのだ。だから、どきどきしながらも、ブルーベルは自分に言い聞かせた。

(あまり期待し過ぎちゃダメよ!ブルーベル)

水色の綺麗な包装紙と白いリボンを外せば、四角い箱。この中に、正一から16歳のブルーベルへの贈り物が入っている。
そっと、箱の蓋を開けてみて、ブルーベルはしばらく声が出なかった。

「ブルーベル、フリーズしてないで、ちゃんと箱から出してあげなよ。正チャンも、涼しい顔してるけど、内心では心臓バックバクに緊張してるんだよ♪」
「白蘭サン五月蠅いです!!」

親友同士の言い合いをどこか遠くに聞くような気がしながら、ブルーベルは箱の中からもう少し丸みを帯びたフォルムの、ベルベットの箱を取り出した。
……どうして、こんなに勇気が要るのだろう?思った通りのものだったら、今日この日に誰よりも幸せな女の子になれるのに。違うアクセサリーだったとしても、やっぱりブルーベルは正一からの贈り物なら嬉しくて、大切に身に着けるのに。

ブルーベルは、心の中で「えいっ!!」と覚悟を決めてアクセサリーケースを開けた。

……きらきら、きれい。
透明のはずなのに、複雑なカットで虹色の光がきらめく、……ダイヤモンドの指輪。

ケースを開いたのはブルーベルだけれども、正一がケースから指輪を抜き取って、スッとブルーベルの薬指に通してくれた。
ブルーベルが見上げれば、眼鏡の向こうで緑色の瞳が優しく笑っていた。

「ブルーベル。僕の、16歳の花嫁さんになってくれるかい?」

ブルーベルは、正一を見上げながら、何も言えずにいた。
……ゆめ、みたいで。

「やるなー正チャン。Will you marry me ?(結婚してくれますか?)じゃないの?」
「それなら、既に伝えたことがあります」
「成程。そう言われてみればそうですね。もう10年以上前から、貴方はブルーベルの王子様で決定でしたから。…にしても、案外ヘタレていませんね。最短距離で16歳の花嫁をかっ攫うとは」
「桔梗…。かっ攫わないから。僕はまだ、ブルーベルからの返事を貰っていないんだよ」

そんなの、Yes に決まっているわ、とブルーベルは頬を赤くしながら思った。が。

「入江ーーーっ!!!どーして、こんなみんなが見物しまくりの場面でプロポーズなのよーーーっ!!!」
「いずれみんなに知らせなきゃいけないんだから、いっそ立ち会って証人になって貰った方がいいと思ったんだけど、ダメかい?」

ダメじゃ、ない。でも、幸せだけれども、恥ずかしい。白蘭は当たり前だが、桔梗、ザクロ、そして10年に1度しか笑わないんじゃないかみたいなデイジーまで、(・∀・)ニヤニヤしている。(トリカブトはお面なのでよくわからない)

代わりに、トリカブトは時を告げた。

「選択の時。」

選択なんて、トリカブトでも外すことがあるのかと、ブルーベルは不思議に思った。何も選ぶ必要なんか無いのに。返事は、もう何年も前から約束だった、ひとつだけ。

ブルーベルは、ほんの幼い女の子だった頃、まだ高校生だった正一から、プロポーズして貰ったのだ。その時に、正一はダイヤモンドの代わりに水晶のピンキーリングをくれた。それは小さなブルーベルの小さな薬指にはピッタリで、決して高価な贈り物ではなかったけれども、きらきら光を反射する水晶はダイヤモンドのように思えて、とても嬉しかったのを覚えている。

そのピンキーリングはフリーサイズで、長い間ブルーベルの薬指に飾られ、ブルーベルが成長すると小指に移した。空いた薬指には、あとで正一がプレゼントしてくれた、綺麗な水色のアクアマリンの指輪があって、それもブルーベルは大切にしていた。
そして今、そのアクアマリンにの指輪に、ダイヤモンドの指輪が重ねづけされて、水晶の指輪よりもずっと華やかに、そして大人びて美しく輝いている。

「…Yes.よ」

ブルーベルは、そうひとこと答えた。
随分短い返事で、何だか素っ気なくきこえたかもしれない。でも、胸がいっぱいで、そう答えるのがやっとだったのだ。

10歳のバースデーパーティーに、正一に教えて貰った。それは、バースデーケーキのろうそくを一気に吹き消すと、願い事が叶うというおまじない。その時の願い事は…

(本当は…。“ブルーベルの傍で、入江がずっと幸せでいてくれますように”…だったの)

花嫁さんも夢だったけれども、あの頃はそれがブルーベルの一番の願い事だった。
毎年それが続いて、ブルーベルは15歳の誕生日になって初めて、願い事を具体的な物に変えたのだ。

(早く、入江がブルーベルを花嫁さんにしてくれますように)

実際には遠いのだと思いながら、願わずにはいられなかった、あの日。
白蘭と、真六弔花と一緒に暮らすことが当たり前で、朝目覚めたら彼らがいて、行ってきますと家を出て、この屋敷に着いたならただいまと言って、おかえりと言って貰えて、それが自分にとって年相応で自然な事なのに。
それなのに、デートの別れ際に、またねと次に会う約束をして別れたあと、思わず正一を振り返ってしまう、短い間でも離れているのが寂しいだけではなく、いつしか不自然で理不尽な別れのように思えて振り返ってしまうようになった。いつから…?

振り返り、追いかけて、去って行こうとする背中を抱き締めて、一緒にいたいと言えたら。

……ううん、またね、なんて言わずに、手を引いて一緒に行こうと言ってくれたら。

何度、そう思っただろう?

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