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「どーして!!プールの人魚・水泳天才少女のブルーベルが!!スイミングスクールを1ヶ月もお休みして、勉強なんてくっだらないものやらなきゃならないのよーーーっ!!!」
「それは、君が留年の危機だからだよ」
「…………」

ブルーベルは、自慢の長い髪を、きーっと掻きむしりたくなった。
「にゅにゅにゅーーーっ!!うるさぁぁい!!マジレスしてんじゃないわよこのモヤシ眼鏡ーーーっ!!」

温和そうなその青年は、眼鏡の向こうの緑の瞳でブルーベルを見つめて微笑した。
「モヤシだけど、僕は頭だけはいいって子どもの頃から言われて来たから、君を助けてあげられると思うよ」
「あんた、本当マジレス好きね!!!」

イタリアの義務教育は10年間。16歳、高校2年生までだ。
だが、義務教育だというのに、中学から高校に進学する時には、ご立派にも国家試験というものを受けて合格しなくてはならないのだ。
つまり、<不合格>なら、容赦無く中学留年になる。

「ブルーベルは、水泳だけでいいのよっ!!オリンピックで金メダルなのよっ!!金メダルに学校の勉強なんて要らないわよっ!!無駄も無駄だわっ!!!」
「確かに、タイムさえよければ金メダルを取れると思うけど、スターになって各国の報道陣にマイクを向けられたときに、いかにも頭の悪そうな受け答えしか出来なかったとか、水泳ばかりで中学留年したとか、世界中にテレビやネット動画で放映されるのはどうかと思うよ」
「…………………………………」

ブルーベルは、不覚にも沈黙した。
世界に輝く金メダルとセットで、世界レベルの恥が付いてくるなんて、イヤすぎる。

「…という訳で、反感が満々で、白蘭サンが言ったことも君の頭からスッポリ抜け落ちているだろうから、改めて自己紹介するよ」
「言ったこと“も”って何よ!!抜け落ちてないっ!!学校の勉強以上にあんたのことなんかキョーミないから、始めから聞いてなかっただけよっ!!」
「どっちでもいいよ。もういちど僕から自己紹介するから」

にこりと、紅茶色の髪に緑の瞳の青年は笑った。
「僕は、白蘭サンに君の家庭教師を頼まれた、入江正一。白蘭サンの親友で、機械工学専攻の大学院生だよ。得意科目は、体育と美術以外の全教科」
「つまり、頭以外は全身が不器用なのね」
「あはは、そんな感じだよ」
「じゃあ、あんたは虚偽広告よ。音楽もダメダメでしょ。音痴で楽器も全滅でしょ」
「……そうでもないよ」

くすりと青年は笑い、その笑い方が柔らかく優しくて、ブルーベルはどうしてか、ドキンとした。

「僕はね、君みたいに綺羅星のような才能は無くて諦めてしまったけど、子どもの頃はミュージシャンになりたかったんだ。僕に出来る限りの努力は全部したから、歌とギターとピアノはそこそこ出来るし、学校の成績もAだったよ」
「にゅ…。生意気だわ。頭だけのモヤシのくせに」
「不器用だけど、好きだから努力出来たんだよ。…ミュージシャンにはなれなかったけど、高校時代には学園祭で白蘭サンとバンドを組んだ事もあるんだ。楽しかったよ」
「にゅ!?」

これは、初耳。いかにも(白蘭には)似合いそうだけれども。
「ねーねー!びゃくらんカッコよかった!?」
「それは、何をしててもしてなくても、そこに居るだけで格好いい人だから。マシマロ食べながらマシマロココア飲んでても、人外みたいな美形だから」
「……あんた、ホントに親友?なにげに容赦無いわ。それともびゃくらんの1万分の1もカッコよくないからヤキモチ?」
「格が違いすぎて、ヤキモチをやけるレベルじゃないなあ。1万分の1ってほどじゃなかったけど、白蘭サンに30人ファンがいたら、僕には1人っていう感じだから」

……にゅ?とブルーベルは聞き咎めた。

「ちょっと。イリエにもファンがいたとか、有り得ないこと言ってる訳?」
「有り得なくもないよ。白蘭サンがリーダーでメインボーカルだったけど、僕はギタリストで、ギターソロでそれなりに目立つ場面があったからかな、ファンレターや差し入れを貰ったことがあるよ」
「……女の子?」
「男性客も結構いたけど、そういうマメなことをしてくれるのは女の子だよ」
「…………………………………」

照れもせずに、サラリと言ってのけたのが、中学生みたいな顔しておとなのおとこのよゆう!!気に入らない!!とブルーベルは思った。

「何よーっ!!イリエのくせにーーー!!!」
「ありがとう。名前を覚えてくれて」
「…………………………………」

にこりと笑顔。だてに白蘭の親友ではないらしい。モヤシのくせに結構しぶとい。
そして、早速本題に入った。
「じゃあ、君が一番苦手な科目の底上げから行こうか。何が苦手?」

ブルーベルは、やけくそ、…否、未来の金メダリスト人魚として、誇り高く言い切った。

「体育以外の全部よ。ブルーベルは、水泳でが一番で金メダルだけど、スポーツ万能なのよ」
「…………………………………」

正一は、5秒沈黙した。遠い目だ。
でも、その5秒を過ぎると、また優しい笑顔に戻った。

「じゃあ、数学から行こうか。成績が悪くて数学が得意っていう人はまずいないから。留年の危機になるほど数学が出来ないなら、多分小学校の中頃辺りで躓いているんじゃないかな。算数に遡って復習しようか」

ずがーん、とブルーベルに落雷した。
数学…じゃなくて、算数!?さんすう!!!

ブルーベルは叫んだ。
「ブゥーーーだ!!!そんなオコサマなもの、絶対やってやんないわよっ!!そこまで遡らなきゃブルーベルの成績を上げられないのなら、あんたは自分が頭よくてもカテキョーとしては無能よっ!!」
「……分数の割り算は出来るかな。小数の掛け算や割り算は?小学生で躓く子は大抵ここがアウトなんだけど、これが理解出来ないのなら、中学校の数学は全滅する。君が問題なく出来るって言うのなら、僕は中学校の数学から授業を始めるよ」

…ぜんめつ!!と口から魂が抜けそうになるブルーベルに、家庭教師入江、にっこり。

屋敷中に、きーっというブルーベルの叫びと共に、怒声が響き渡った。
「うるさぁぁい!!!やってやるわよコノヤローーー!!!これでブルーベルが落第したら、人魚の蹴りであんたをプールの端から端までぶっ飛ばしてやるーーーっ!!!」
「じゃあ、ぶっ飛ばされないようにするよ。これからよろしくね、ブルーベル」

……ほっぺたが熱いのは、あたまにきたせいよ。
ブルーベルが、何言ってもやっても怒んないで、ほほえまし〜い感じに、おとなのよゆうで笑ってるのが、……とにかく、気に入らないの!!

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