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高校に入学してすぐに、仲良くなった。

全国から優秀な生徒が集まる学校であるが故に、地元の学校であっても知り合いは殆どいない。
でも、人見知りのあまり緊張してお腹が痛くなりそうだった正一の隣の席には、親日家で人懐こい金髪碧眼の留学生。

(そっか、正一っていうのか。ウチはスパナだ。ヨロシク)

スパナは、ロボット工学が進んでいる日本は幼い頃から憧れだったと言い、この学校も高校生国際ロボット大会に何度も出場している実績があるので選んだと言った。
「正一、ウチとコンビ組んで、ロボット作らないか?」

正一は、日本の子どもにはありがちに、単に偏差値で「行けそうだから」という理由でこの高校に来てしまったのだけれども、思い掛けずワクワクする夢に巡り会えた。
正一も機械系には元々興味を持っていたので、スパナに誘われるまま同じ科学技術部に入った。

思いの外友達はたくさん出来たけれども、正一は物理的にも興味関心も一番近いスパナとは、学校では殆どいつも一緒にいることになった。それが、自然な事で、楽しかった。
プライベートな話もするようになり、スパナが親日家になった理由は祖父の影響であることも、その祖父は交通事故で既に故人だということも知った。

「全然寂しくないって言ったら嘘になるけど、でも今のウチは希望でいっぱいだ。ウチが日本の難関校に合格して、ロボット大会で世界の舞台に出るっていう夢にチャレンジするの、じいちゃんは天国で喜んでくれてると思う」

そんなスパナが、GW明けに、「寂しかった」と言ったので、正一は困惑した。
学校のGWは、学校行事の振替休日を平日に持って来たり、夏休み期間を何日か短くするようにして、かなり長い連休になるように設定された。生徒達は日本全国から集まっているので、相当数が実家に帰ったり旅行に出かけたりして、スパナが暮らす寮は随分静かだったらしい。

「寮には正一がいない。ずっと学校なかったから、ウチうんと寂しかった」
「えぇと…、もう遅いんだけど、僕って日曜や祝日は、家にいることが多いよ。この学校ってお金持ちが多くて、家族で海外旅行に気軽に行ってるみたいだけど、うちは僕を私立の高校にやって、姉さんが大学で独り暮らしするようになっただけで教育ローンを組むような中流家庭だから、贅沢は出来ないんだ。連絡をくれたら一緒に遊んだり、寮が寂しいならうちに泊まりにきてくれても良かったんだけど……」
「そうだったのか?ウチもう独りだから、一家団欒は憧れだ。家族がいる正一は、長い休みは家族と過ごす思って、邪魔しない方がいいと思ってたんだ」

一家団欒とは、憧れるようなものだったのかと、正一は初めて知った。
自分も小学生くらいまでは家にいるのではなく「家族と外出」することは楽しみにしていた。だが、おとなが言う「家でゆっくりする」のは退屈なだけだと思っていたのだ。
そして、姉が中学生になると、土日でも姉の部活動や友人との外出で家族の足並みが揃わなくなり、正一はインドアだったけれども自室で音楽を聴いたり、好きな本を読んだり、オンラインのゲームをしたりして、家族と出かけることよりも自分の自由時間を持つ方が楽しいと思うようになっていった。

「邪魔なんかじゃないよ。また長期の休みに入ったら、一緒に遊ぶ計画を立てようよ。僕も、学校みたいにスパナと一緒にいる方がずっと楽しいよ」
「うん、ウチ嬉しい」

スパナは、にこりと笑った。

「ウチ、正一が好きだ」
「え…?」

正一は、「寂しかった」よりも戸惑った。
でも、照れる気持ちはあったけれども、素直に応えた。

「…ありがとう。僕も、スパナが好きだよ」

日本では、男友達同士が好きと口に出す習慣は無いけれども、知り合って1ヶ月なのに、親友って思うのはまだ早いのかな…と考え込んだことは何度かあるくらいに、正一はスパナを「好き」なのだと思ったのだ。

……そう思っていたから、次に訪れた瞬間は、まるで夢の中のことのように思えた。
誰もいない教室で、スパナの唇が、そっと自分の唇に触れたのは。

「帰ろっか」
「……うん」

夢から覚めたように、正一はぼんやりと応えて、スパナに付いていった。スパナは先に行かずに待っていてくれる。
当たり前だ。正一が後ろを歩く理由はない。いつもふたりはお互いの隣を歩いているのだから。

スパナが寮に向かう交差点に着くまで、いつも通り何気ない話をして帰路についた。
「じゃあな、また明日」
「うん…。またね」

軽く手を振り別れてから、正一の頬は火照った。
唇が、触れた。それは、キスなのだと今更思って。

……どういう、意味なのだろう?
イタリアではそういうものなのだろうかと思ったけれども、エアキスでも抵抗があれば握手で済ませることもあるのだし、唇のキスはやはり特別なのではないか。
でも、イタリアでどうという以前に、ここは日本なのだし、スパナは日本の文化には詳しい。日本人は、恋人同士か熱々の夫婦くらいに限られることくらい知っているはずだ。

……スパナに、訊けばいい。
正一は、並盛に向かう電車に揺られながら、ひとり俯いた。

それだけのことなのに、正一はきっと明日も訊けないのだろうと思った。

思い出せば、まだ唇にスパナの唇の感触が残っているような気がする。
でも、それ自体が、夢の記憶のような気がしてしまい、正一は自分の感覚に自信が持てないような気持ちになった。
帰り道、スパナはいつもと同じように他愛のない話題を持ち出したのだのだし、正一に意味が分からなくても、夢でも現実でも、あの一瞬で終わったのではないか。

正一は、家に帰ると食事も宿題もお風呂も手早く済ませてベッドに潜り込んだ。
きっと、GW前もずっとそうだったように、スパナにおはようと声をかけて学校での1日を始めればいい。そう言い自分に言い聞かせながら、目を閉じた。

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