01

「ねえ、哲」

名を呼び、それだけだ。だが、命令だ。傍に来いと。
だから、草壁はそのようにする。

草壁を呼ぶ声は素っ気ないが、特に冷たくもなく、威圧感もない。
単に命令しなれている、それだけだ。

だが、草壁はその声に呪縛を覚える。
一切逆らえない、逆らうという選択肢さえ忘れる。

「気持ちよくしてよ」

そう、雲雀は言った。
草壁は知っていた。素っ気ないようでそうではないのだ。細められた美しい黒い目は、明らかに草壁の中の男を誘い出す、蠱惑的な色香を持っている。
草壁は、命じられ、誘われ、高級な革張りのソファに座す雲雀の前に跪く。雲雀の細い腰のベルトを外しファスナーを下げる動作は、誰よりも忠実な部下らしくうやうやしく、しかし唯一雲雀に恋をすることを許された男の荒々しさがある。

下着をずらしてみれば、雲雀のそこは既に緩く勃ち上がりつつあった。草壁はそれに煽られ、一気にむしゃぶりつきたい衝動に駆られる。だが、そうはしない。してはならない。
軽く亀頭に舌を這わせ、尿道にキスをするようにちゅくりと吸うと、雲雀がはぁっと艶のある息を吐く。

次は、丁寧に竿を舐めるところから始める。たっぷりと唾液でぬめる肉厚の舌で。
「あ、ん…、はぁ…ん、ん…っ」

雲雀が声を上げ始め、ビクリと雲雀は足を閉じようとする。
だが、草壁はそれだけには逆らった。閉じさせては、よくすることなど出来ないからだ。

雲雀のスラックスを下着ごとずり下げ、少女のような足を剥き出しにする。その足は、無駄なく引き締まり程よい筋肉が付いていたが、白くしなやかですね毛もろくに生えていない、滑らかな肌をしているのだ。いつまでも撫でていたくなる肌を。

しかし、草壁はそうはしなかったし、今はそのような許しを得ていなかった。雲雀から与えられた許可、つまり命令は、局部に快楽を与え射精させろ、という意味だからだ。
草壁は、ぐいぐいスラックスを下げたが、上靴が引っ掛かって足から抜きにくい。無礼にも、上靴も靴下もむしり取るように雲雀を裸足にした。

「あぁん…っ」
声変わりしている少年の声であるのに、やはり無力な少女のような響きだ。殊更に股関節をぐいと開かせるのは、恋する少女への叶わぬ想いに思い詰め、その乙女を襲う暴漢のようだと草壁は思った。

だが、雲雀は少女ではないし、草壁もまた、叶わぬ恋などしていない。
最強と謳われるほどの、圧倒的な戦闘術とカリスマで君臨する、孤高であるはずのこの少年は、草壁の忠誠と共に恋心も受け容れたからだ。

それは、草壁には奇跡の恋の成就と幸福だった。
奇跡であるから、いつまで経ってもそこに安心していることが出来ない。恋は叶ったというのに、草壁はいつも余裕の欠片も無く雲雀に恋い焦がれるのだ。

だが、草壁はこの奉仕の営みに、別の意味の好ましさと高揚を覚えていた。
よがる雲雀の乱れた息、悩ましい声を聴く度に、奉仕をしているのは自分の方であるのに、リードし思うままに翻弄しているのは自分の方のような気がする。喘がせる自分の方が、雲雀を支配しているような気がする。

高揚するのは、草壁が今更雲雀に勝利したいからではない。
ただに、この支配が甘美であるからだ。この、最強の美しい少年を、一層美しく、そして可愛らしく、草壁の意のままに啼かせることが出来るという、雄の昂ぶりの満足だ。

草壁が雲雀の裏筋を執拗に舐めて責めると、あっあっと雲雀の声は切迫してゆく。その声が耳に心地良いと思いながら、草壁の手はさらりさらりと袋を撫で擦っていた。
ひんやりと広がっていた雲雀の袋は、今はキュゥと収縮している。玉はその内側に既に逃げているが、草壁が指で袋を押して探し当てると、一層奥へ奥へと逃げようとするのが、恥じらっているようでいじらしい。

「アァ…ッ!」

雲雀の追い詰められた声が、草壁を煽る。草壁は、雲雀の竿を握りながら、唇と舌は亀頭の先に移ったのだった。
ちゅぷ、ちゅぷ、と敏感な粘膜を吸い、舌先を尿道にねじ込ませてほじる。

「あぁ…っ!哲…!!」

とうとう、雲雀が草壁の名を呼んだ。
絶頂が近い感覚。しかし、そこに至りたいのにまだ刺激がもう一歩足りずに疼き焦れる。

「哲…てつ、てつ…!」

恋うる少年に、何度も名を呼ばれるということは、何と心震えるものであるのか。
しかも今、誰よりも自由であるはずの雲雀は、草壁が与える快楽に囚われ、切ない声を上げることしか出来ずにいるのだ。
この声を聞く為に、草壁は餓えた犬のようにむしゃぶりつきたかった衝動を、抑え続けていたのだ。

己の名を呼ぶ声は哀願にさえ似て、草壁はやっと雲雀のものを全て口に含み、雲雀の望みに応じた。口内の粘膜を、全て雲雀のペニスに密着させて、少しの空気も残さぬ勢いで、キュゥゥと強く吸い付く。
雲雀が、小さく呻いた。吸われる締め付けは、雲雀に苦痛を与えている。だが、処女を抱くのは狭くキツいのが心地良いように、雲雀もまたこの痛みを伴うフェラの虜になるのだ。

こよなく美味なものを口にしたときのように、草壁の舌下からは唾液が溢れ、咥えてピストンをすればジュボジュボと淫靡な水音が鳴る。

「あぁ…!ああぁ、…アッ、アッ!アッ!ぁん!あぁんッ、アァ…ッ!!」

草壁が扱くままのリズムで、雲雀は堪らずに嬌声を放つ。
最強の少年は、ペニスを持った無力な少女のように、草壁の思い通りになる。

煽られる。奉仕という義務は支配という荒々しさに変わり、草壁は容赦無く雲雀を責め立てた。

「あぁ…!」

草壁の口の中で、雲雀は射精した。ペニスが脈打ち、一度では済まずにビクンビクンと精を迸らせるのも、雲雀が望んだ射精というよりも、草壁が搾り取った証のように思えた。

「ひうぅ…っ!!」
草壁は、本当に搾り取るが如く、雲雀の尿道に一滴の精も残してなるものかと、ちゅうぅと強く吸った。
雲雀は、実際に精を吸い上げられ、悲鳴のような声を放ってビクビクと震えた。

草壁が全てをゴクリと喉を鳴らして飲み込み、奉仕は終わった。
草壁は、ぐったりとしている雲雀の体をソファに横たえ、脱がせた下着とスラックスを穿かせた。

だが、まだ裸足であるのが、服を着ても雲雀の色香を一層感じさせるような気がする。草壁は己は解放出来なかった股間の熱を長ランの内側に感じながら、これ以上の荒ぶる恋情をぶつけぬように己を制御しながら、白い足に靴下と上靴を履かせた。

「大丈夫ですか、恭さん」

雲雀の乱れた黒髪を、指で梳いて整えながら問い掛ける。
本来は、全く無意味な問いだ。草壁は、雲雀の命令に従い奉仕をしたのだから。
だが、問い掛けてしまったのは、命令に従うだけではなく、雲雀を思うがままにしてみたいという欲に囚われ、雲雀が抵抗する力を失っているのをいいことに、己の好きにしただけだという後ろめたさがあったからだ。

クス、と雲雀が笑った。
「……何か?」
「君、優しいよね」

困惑する草壁に、雲雀は慈悲さえ感じさせる微笑を浮かべた。

「君、荒っぽいのに優しいよね。僕を貪りたいくらいに欲しいのに、僕に傷ひとつ付けたくないと思ってる。でもね、どちらもそのくらい、君が僕を恋しがっているからだよ。…君は、僕がいなきゃ生きていけないはずだ」



……ああ。オレが、貴方を支配出来るはずもなかったのだ。






〜Fin.〜
 

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