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5月2日。日本では平日だが、もう日が暮れようとしている時刻、イタリアから半日以上をかけて、ロマーリオは来日した。

前回は3月中旬、雲雀と草壁がとうとう並中を卒業し、その卒業祝いだった。
正確に言えば、ロマーリオは雲雀の<父親>として卒業式に列席したのだ。

それは雲雀にはサプライズであったので、雲雀はとても喜んだ。
だが、周囲の並中生徒達も驚いたことだろう。

「あの」不良の頂点にして高嶺の花を兼ねた並盛一の美少女が、氷の女王のような美しい面を、春に咲く花のように可愛らしい笑顔を輝かせて、「とうさま」と呼んでロマーリオに駆け寄り抱き付いたのだから。

雲雀の美貌には、南欧系の血が入っていたらしい、という噂が並盛中学校と、次に雲雀が入学した並盛高校に、あっという間に広がったと、電話で雲雀は可笑しそうに笑っていた。

(おいおい…どうすんだ、恭弥)

(どうもしないよ。人の噂も七十五日、…っていう言葉が日本には有ってね、放っとけば収まるよ)
(尤も、貴方が僕のとうさまで定着する形で収まったところで、僕は一向に構わないけどね?)

その程度に、雲雀恭弥という、頂点だが人間嫌い、に見える少女が、血が繋がらない父親に懐くなどとは有り得ないと誰もが思ったのだ。

今日は5月2日で、前回から2ヶ月経っていないのだが、ロマーリオには長く感じた。
…あの甘えん坊の可愛い娘を置いて行くのは、心配だからなのか。それとも、ごくシンプルに<可愛い娘>だから会いたいと思うのか。それとも…

(惚れちまったのか)

困ったもんだとロマーリオが独りごちると、ディーノが不思議そうな顔をした。
「何か言ったか?ロマ」
「いや…」

大人の男は、この現実に悩んでいた訳ではない。父親のように、愛おしいものは愛おしく、雄として欲しいものは欲しい。それで雲雀が幸福そうにするなら、ロマーリオはそれが世の中の倫理に反した関係であっても全く構わない。
だが、何も知らないディーノに対しては、さらりと無難にまとめた。

「会う度に色っぽくなる娘を持つ父親としては、嬉しいやら複雑やらなのよ」
「父親、かぁ…」

ディーノもまた複雑だ。
雲雀は、家庭教師を名乗り出会ったディーノに対しては、肉食獣が獲物を見るが如きであったからだ。

「ロマが父さんなら、オレはそろそろ<義理の>兄ちゃんでも良さそうなもんなのになぁ」

……そう、せめて、<義理の>とつかなければ、ならないのだ。

「ソイツは、恭弥はファザコンだがブラコンは有り得ねえから、諦めた方がいいぜボス」

ディーノは、とっさに返事が出来なかった。
ロマーリオの言うような、微笑ましい口調のファザコンで済ませるのには、雲雀の境遇は凄惨な過去を持つものだと、察していたからだ。

かといって、ディーノはロマーリオに尋ねるのは躊躇われるので、黙ってきた。しかし、雲雀に直接聞けば、拍子抜けするほどアッサリと「そうだよ」と言い出しそうなのが、返って怖ろしいような気がした。

(そうだよ)

(僕のとうさまは、かあさまが殺した)

(かあさまは、僕が殺した)

ディーノには、目に見えるような気がした。もうすぐ16歳になる雲雀の、可愛らしくも艶麗な微笑が。

(…殺した。それがどうかしたの?跳ね馬)…


「とうさま!!」

飛行機の乗客の出口を出たところで、GWで混み合うホールから少女の弾んだ声が聞こえて、雲雀が走ってくるのが見えた。
雲雀はディーノが見慣れた制服姿ではなく、首元でリボンを結ぶシフォンの白いブラウスに、ラベンダー色に裾にバラの花柄をあしらったフレアスカート、足元はピンク色のサテンの生地のワンストラップパンプスという、お嬢様らしいいでたちだ。

「おう、恭弥。ちょっと見ねえうちにまた綺麗になったな」
ロマーリオは雲雀を抱き止めたが、雲雀は不満そうだ。

「じゃあ、僕は時間を遡ると綺麗じゃなくなるの?」
ロマーリオは苦笑した。
「いいや。見る度成長して、違う顔を見せてくれるが、いつの恭弥も綺麗だぞ」
「……ふふっ、そうだよね。僕は、数え7つで、<超えてしまった>もの」

雲雀が、<綺麗>に笑う。
ディーノは、ゾクリとした。雲雀は時折、年相応の少女の笑顔ではない、天女のような、闇の女神のような、この世のどんな女も霞むような笑い方をする事がある。

ディーノは、ロマーリオと共に、並中の応接室で聞かされたことがあった。
雲雀と、亡き母は、白雪姫と王妃のような関係であったと。誰もが美しいと讃美してやまない母を、雲雀は子供のうちに超えてしまったのだと。
当然、という口調で雲雀は話したけれども、その童話に例えたのは、単に美しさの問題だけではないような気がディーノにはしたのだ。

(女王はあらゆる手を使って、ほんの子どもの白雪姫を始末しようとするのさ)

雲雀は、母を殺したのではないか。…だが、それ以前に、母が幼い雲雀を殺そうとしたのではないか……

「どうしたの?跳ね馬」

雲雀の声に、ディーノは我に返った。

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