01

「正一、イライラした時には糖分だ」
「…………」

正一は、キレた。
「キレたくもなるさ!!用も無いのに基地の防御システムにハックして!!勝手に僕の研究室に入り込むなんてっ!!アハハハ正チャン、スパナ君に負けちゃったんだ〜♪…とか!!白蘭サンが嬉しそ〜に笑うネタが増えたじゃないか!!」
「白蘭は、いつも共食いでマシマロ食べながら笑ってるんだから、放っておけばいいと思う。でも、ウチは正一を放っておけない」

スパナが正一に向ける青い瞳とその眼差しは、どういう訳かスパナがビニール袋に沢山入れて差し出した赤いイチゴ飴よりも、甘かった。

「正一、ほっぺたピンクでかわいい。どうしてかな、イチゴって赤いのに、ピンク色のイメージもあるよな。正一はウチのStrawberry.」
「誰が誰のストロベリー!!…いや、いい。ピンク色のイメージなのは、実際にいちごミルクとかいちごアイスとかイチゴパフェとか、乳脂肪分と一緒になるとピンク色になるからだよ」

……どうして、僕は真面目に答えてしまったんだろうか。と正一は自分の真面目さに眩暈を覚えた。

「そっか、さすが正一イライラしてても冴えてるな。ああ、誰が誰のって、正一がウチの可愛いStrawberryだ。」
「ウチの、だけでも異論があるのに、どうしてそこに“可愛い”っていう有り得ない装飾が付くんだい!?君も、白蘭サンみたいにティッシュよりも軽い“可愛い”で僕をからかう悪い男第2号!?」
「軽くないよ。いい男かどうかは正一が決めることだけど、ウチはいつだって本気だ」

スパナは、マイペースに正一の研究室に折りたたみ式ちゃぶ台をひろげると、持って来た2人分の皿にいちご大福をのせて、連れてきたミニモスカは夫婦湯飲みに緑茶を淹れた。
「…あ、ウチ座布団忘れた。床の上に正一を座らせるの、痛恨だ」
「警備システムをハックされた僕の方が痛恨!!!」
「好きな女の子を可愛いって思わない男はいないと思う」
「…………」

正一は不意を突かれ、今自分はピンク色からヴァージョンアップして、本当にイチゴ色になったんじゃないかと思った。
「正一、耳までイチゴ色にヴァージョンアップ」
「謎の電波みたいに僕の思考を読まないでくれないかな!!」
「読むって言うか、可愛いと思うし、今ウチが正一のこと好きって言ったら、意識してくれてイチゴ色なんだろうけど、ウチは自信がある訳じゃないよ。正一は、ヤマトナデシコでシャイガールだから、ウチじゃない男でも、可愛いって言ったり好きっていったりすれば、イチゴ色になると思う。……ウチが特別かどうかまでは、ウチはわからない」

正一が返答に窮していると、ミニモスカがちょいちょいと愛嬌のある仕種で手招きしてお茶と茶菓子を進めてくれたので、何となく邪険に出来ずにスパナの正面に座った。

「正一が、白蘭に片想いしてるのは知ってるけど」
「悪かったね!!親友という肩書きの恋人未満で!!悪い男でも見限れない、不幸な女体質で!!君が何で知ってるのか知らないけど!!」
「何でって、ウチは正一が好きだから、正一を見てる。でも正一は、ウチのこと見てないんだ。白蘭のこと諦めてるみたいだけど、それでも白蘭を見てる。…だからわかるよ」

警備システムをハックされて、機密を扱う研究室に無断侵入→今何故かちゃぶ台を囲んでお茶タイム、という非常識でもスパナがふざけていないらしいことは、正一にも伝わってきた。
見つめているのに、そのひとの視線は自分ではない何かを見つめている。そう思いながら、目で心で、追うことをやめることが出来ないのは、とても切ないことだから。

正一は、自分はひたすら切なくなる専門だと思っていたので、スパナにそんな思いをさせていたのだろうかと思うと、戸惑いを覚えた。

「でも、正一はウチが仕事でいい結果を出したときには、ウチを見てくれる」
「…………」
「ウチが、非常識な大問題を起こしたときも、見てくれる」
「非常識の自覚があるのならやめてくれないかな!!」
「でもウチ、正一に構って欲しいから」
「お母さんに構って貰う為なら手段を選ばない幼児みたいなことを言わないっ!!!」

正一は、眩暈がした。どうやら、本当にスパナは自分を好きだ。だが、非常識にも手段を選ばない。
本来の予定では、スパナに与えた仕事の期限は明後日なのだが、スパナは待ちきれずに、それよりも早く正一に会いたくて、実力行使に出たのだ。

「幼児じゃないし、正一はママンじゃないよ。ウチは男で、正一は可愛い女の子だ。だから好きだ。ウチ、女の子に可愛いって言うのは、正一だけだよ。Because I love you, Shoichi. Please be my girl.」

突然の告白に、正一はイチゴ色に染まったまま、ちゃぶ台の前に正座して固まっていた。
スパナは、本気だ。何しろ、マイペース強引で勝手にウチのStrawberryと言ったスパナが、正一への求愛にはPlease を付けたのだ。しばしば突拍子もないことをやらかすスパナだが、正一への気持ちは真剣なのだ。

……と、正一は思った。自分を見つめるスパナの青い瞳が、近付いて来るのを感じながら。

いつの間にか、スパナは床から立ち上がり、正一のすぐそばに来ると再び膝を付いた。
パキン、という軽やかな音。
それは、正一が受け取ったイチゴ飴の袋から、1本だけ取りだしたスパナが、口の中で飴を砕いた音だった。

正一は、青い瞳を見失って、思わず目を閉じた。……唇を柔らかく塞がれて、口の中にコロンとイチゴ飴の甘い欠片が入って来たのを感じながら。

「正一、Say yes.」
「Pleaseはどこに言ったんだい!?おまけに無断でキ、…!」
「無断じゃない。ウチゆっくりにしたよ。キスって言えないくらい清純な正一でも、嫌がってNo!って叫ぶか、ウチに平手打ちするか、時間は作ったよ。でも、正一は厭がらないで待っててくれたから、キスOKだと思う」
「〜〜〜〜〜っ」
「Say yes.」
「…………」

確かに、No.と言うことも出来たはずなのに。
正一の心の中には、望みは残っていなくても白蘭への想いはあったのに。

(Please be my girl./ウチの恋人になって)




……未来の、甘酸っぱい気持ち。
14歳の正一は、思い出してイチゴ色になった。

失恋を癒すのは、新しい恋だと言うけれども、実際にそうだったと思う。
殺伐とした世界の中で、裏切りの苦しみと命懸けの戦いの中で、それでも正一は確かに愛される幸福に生きていたのだから……

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