01

座布団もいいけれども、「居間」という言葉らしく、家族がいつも寛いで居られる部屋としては、座椅子がいいんじゃないかとスパナが言い出した。
確かに、狭いジャパニーズ・ウサギ小屋であっても、ダイニングテーブルの近くにはぎゅうぎゅうとソファが置いてあった、そんなマンションで育った正一には、座布団に座って正座は足が痺れるのだし、あぐらも姿勢が悪くなる。何より長く寛ぐ感じではない。

それは、背もたれがないからだと、スパナに言われて気付いたのだった。

正一とスパナが暮らしているのは、3Kという、その表記だけで古い物件とわかる、実際に古い平屋だった。
DKとかLDKではなく、Kという辺りが、要するにそれはキッチンというよりも台所という雰囲気と広さで、作った料理は廊下を挟んだ居間に運んで食べる。残りのふた部屋は、一室は正一とスパナの机が置いてある勉強部屋で、もう一室はふたりの寝室、という使い方だ。

つい最近までよきライバルでよき友人、と思っていた正一は、その使い方に大いに緊張したのだけれども、そうせざるを得なかったのだ。
現在寝室になっている部屋が、四畳半という、今時の若者にしてみれば何だそりゃ、物置かというような狭い畳部屋で、もう一室の6畳間をどちらかの私室にするのには、不公平感もあるが現実問題として四畳半の方にデスクその他を置くと寝るスペースがなくなる、という事情によるものだ。

そうしてふたりは寝室を共有することになったが、スパナは正一を怒濤のように迫り倒した割には紳士だった。
布団を並べるのにも適度な距離を置いて、寝室では正一には指1本触れたことが無い。スパナなりに、強引な流れだったことを理解していて、「付き合い始め」なのだからとたまのキスに留まる関係にしていてくれるのかもしれない。

そんなスパナが座椅子が欲しいと言い出したのは、正座は足が痺れるからという理由ではないのだろうということは、正一にも察しがついた。
スパナは、居間で正一とふたりで過ごす時間を、もう少し長く取れたらと思っているのだろう。スパナは居間が好きでそこで過ごす時間が長いが、正一は食事をしたりお茶の時間にいるだけで、それ以外は椅子のある勉強部屋で過ごすことが多い。

PCでネットサーフをしたり、本を読んだり、真面目に勉強をしたり、BGMは当然にヘッドホンをしてブラペパに浸るので、スパナが近くに来て名前を呼んでくれないと聞こえない。
せっかくふたり暮らしになったのに、正一は案外ひとりでいる時間が長いのだと気が付いた。

そして、「せっかく〜のに」などという文法で思ってしまった程度に、ふたり暮らしなのだから本当はもっとスパナと一緒にいる時間を長く出来たらいいな、と思った自分の心にも気付いてしまい、仄かに頬が火照った。
何だか熱烈に口説かれて、もうYes と言うしかなかったような気がしていたが、元から大学でほぼいつも一緒にいるという生活が自然で、つまりスパナと温度差はあってもスパナのことが「好き」だから、正一は「いいよ」と答えたのだろう。

もし、<ただの友人>だったのなら、正一は同じ大学の同じ研究室だとは言っても、それなりに単独行動や別の友人知人と一緒にいる生活パターンを持っていたはずだ。でも、何かとスパナからも正一からも誘い合っていつもふたり一緒にいたということは、正一にとってスパナがとても<特別>な存在だということなのだから。

ふたりで日曜日にインテリア家具店に行って、座椅子を選ぶことになった。
スパナのこだわりで純和風の家にしてしまったので、その部屋に馴染むようなアースカラーにしようと正一は思っていたのだが、目に付いたのは鮮やかなブルーの座椅子。
試しに座ってみたら、背もたれが背中にフィットして、角度が細かく調節出来るのがなかなかに居心地がいい。だが、それだけに

「高い…」
「いいんじゃないか?毎日座るものなんだから、妥協して安物を買って居心地が悪いとか、早くクッションがへたって結局買い替えるとかするよりもずっといいと思う」

家計はスパナに任せてあるので、その辺りはスパナが食費を特売品を上手に買って調整する辺りでどうにかしてくれるのだろう。
「でも…色が和室に合わないよね。もっと落ち着いた色の方がいいかな」
「グリーンならこっちにある。でもこれ、ウチのにしたい」

スパナが、にこりと笑った。
「こうすると、正一がウチの目の色で、ウチのが正一の目の色で、ウチとしては何となく嬉しい」
「…………」
「今、正一がウチのこと意識して、ピンク色になってくれたのも嬉しい」
「〜〜〜〜〜っ」

別に、正一はスパナの色だと思って選んだ訳ではないつもりだったのだが、言われてしまうと色違いもあったのに気付かずにまっすぐにブルーに目が行ってしまったのは、無意識に青はスパナのイメージだと思っていたのだろうかと、正一は自分でもよくわからなくなってしまった。

家に持って帰った座椅子は、鮮やかな青なのに、グリーンの座椅子と一緒に不思議に部屋に馴染んだ。
「ウチらの部屋っていう感じがするよな」
「……うん」

この部屋が、これからふたりで寛ぐふたりの部屋になる。
そう思うと、正一も嬉しかった。

ふたりの会話が特に多くなったという訳ではなく、ただ一緒にいる部屋。
例えば、正一はノートPCに向かうのも、本を読むのも、勉強をするときさえ、使うものをちゃぶ台に持ち込んで、座椅子に座って居間でやるようになった。
スパナは元からそうで、やはりPCを弄るのも漫画本を読むのも、ちょっとした居眠りも座椅子でしている。

ふと、正一は気が付いた。
文庫本から視線を移すと、スパナがじーっと正一を見ていたのだ。

「えっと…何?」
「好きなブラペパヘッドホンで聴きながら本読んでて、それでもウチに気付くんだな」
「そりゃあ…じーっと見られていたら…。どうしたんだい?」

スパナは、緑茶のおかわりを淹れてくれて、にこりと笑った。
「ウチ、正一がいてくれるんだなあって、見つめてるだけで幸せなんだ」
「…………」
「大好きだ、正一」
「……うん」

うん、じゃないのに。
ふたりが恋人同士になったとき、スパナからは当然に、「好きだ、愛してる正一。世界で一番」などとすらすら言われているが、正一は「ウチと付き合って」と言われて、ごもごもと、「うん、いいよ」と答えただけだ。

……僕は、まだいちども、スパナに「すきだよ」って伝えたことが、ないんだ。

「幸せだから、見つめてていいか?」
「……うん」

5分経過。

正一の目が、活字を無意味に滑る。内容が頭に入ってこない。
正一は、きっとスパナ的には「正一ピンク色で可愛い」顔なのだろうと思いつつも、そう言われる前に切り出した。

「やっぱり…落ち着かないんだけど」
「何で?」
「だって…。ずーっと見られてるのって、何か気にならない?」
「気になるけど、ウチなら正一に見つめてもらうのは、ドキドキして嬉しい」
「…………」

会話が噛み合わない…どうしたらいいんだろうかと正一が頬をピンクにしていると、スパナがくすりと笑った。

[ 96/100 ]

[*prev] [next#]
[図書室73]
[しおりを挟む]

×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -