01

海は、すきよ。

理由なんかないわ。
ブルーベルは、海で生まれて、海で育って、海で生きているの。
海しか知らないから、海以外の場所を好きになりようもないのよ。

海は、泳いでるだけで気持ちがいいの。
ブルーベルは、どんなお魚よりも速く泳げるの。

海の浅いところでしか生きられない魚、おひさまの光が全然届かないような深いところでしか生きられない魚、色々なお魚がいるけど、ブルーベルはどこでも自由。

おひさまの光が届く青い色の海も、夜空よりも暗い、深い深い海の谷の底にも、ブルーベルはどこにでも泳いでいける。
だから、海にはブルーベルのお友達がたくさんいるの。

でも…どうしてなのかな。
時々、さびしい気持ちになる時があって、そんな時ブルーベルは、浅い岩場まで泳いでいって、ちゃぽんって外にお顔を出してみる。

そう、海の外よ。
たくさん生き物がいるらしいけど、「人間」っていう生き物が支配している世界。

ちょっと、興味があるわ。
だって、ブルーベルは、半分だけ人間に似ているんだもの。
ブルーベルの体は、上半身が人間みたいな形で、下半身だけお魚なの。

ブルーベルは、人間みたいな足が無いから、海から外の世界には出ていけない。せいぜい、その人間っぽい上半身だけ、岩によいしょって身を乗り出すだけ。

その日も、ちゃぷちゃぷ泳いでいって、ざぶんってお顔を出した。
いいお天気。おひさまが出ている日は好きよ。海が、とても綺麗な青に見えるから。

「君…!大丈夫?」

慌てた声がして、ん?ってブルーベルはそっちを見た。
ブルーベル、びっくりした。ブルーベルは、多分100年以上生きてるけど、こんなに近くで人間を見たのは初めてだったんだもの。

そして、その人間は、必死な顔してブルーベルに手を差し伸べた。
「僕に掴まって!」
「どーしてよ」
「どうして…って…」

その人間は男の子で、赤茶の髪に、緑の目をしてた。
「ねえ、あんたの顔のコレ、何よ」

ブルーベルは、指でまるを作って、お目々の前に当ててみた。
「えぇと…、眼鏡、のこと?」
「めがね……」

にゅ、とブルーベルはめがねの子を見た。
「それ、何のためにくっつけてんの?」
「僕は、眼鏡がないと目がよく見えないから…」
「ふぅん。人間って、めがねがないと生きていけないの?」
「そんなことはないよ。眼鏡がなくてもよく見える人の方が多いから」
「ふーん。海のおさかなは、誰もめがねくっつけてないわよ」
「…………」

めがねの子は、何だかよくわからないって顔してブルーベルを見た。
「君…、溺れているわけじゃないのかい?」
「にゅっ!」

ブルーベル、むっかー。
「あんた、しつれいねっ!!ブルーベルはね!海で一番速く泳げるのよっ!!溺れるわけないでしょーーーっ!!!」
「え?そうなんだ。…でも、泳ぐ季節じゃないと思うけど…」

今は、やっと冬が終わって、春の風が吹き始めた季節。

「だから何よ。夏しか海の浅いとこでパチャパチャするしかない人間の方がヘンよ」

緑の目が、驚いたお顔でブルーベルを見た。
「君…、人間じゃ、ないの?」
「あったりまえでしょ。ブルーベルは、海で生活してるのよ。人間が同じことしたら、それこそ溺れるでしょ。不自由な生き物ね」
「不自由…かなあ」

その子は、くすって笑った。
「考えたこともなかったよ。僕は、海を見に来るのは好きだけど、いつもは人間の街で暮らしていて、それが当たり前だから」
「ふぅん…」

よくわかんない。
人間の街って、そんなにきれいなのかな。ブルーベルは、きれいなのは海なんだって、疑った事もなかったもの。

「ブルーベルっていうのは、君みたいなひとたちの名前?」
「あんたバカ?ブルーベルは、ブルーベルだけの名前よ。海の魔女が付けてくれたのよ」

あ…でも、言ってたわ。
ブルーベルっていうのは、地上の花の名前なんだって…

「魔女?」
「そうよ。海の、うんと深いところに住んでたの。人間じゃないのに、2本の足を持ってて、でも溺れないから人間じゃなくて、人間じゃないのに泳いでるのは見た事なかったわ。不思議な力を持ってて、ブルーベルにこれくれたのよ」

ブルーベルは、指にはめた水色の宝石の指輪をみせてあげた。
「一生にいちどだけ、ブルーベルのお願いごとを叶えてくれるって言ってたわ。でも、一生にいちどだけだから、小さなおねがいごとに簡単につかっちゃダメだよ、って」

それから…もうひとつ、言った。

「魔女の寿命がきたときに、ブルーベルはこの指輪で、死なないようにお願いしようとしたのよ。でも、それもダメって。生き物は、死ぬって。死なない生き物は生き物じゃないから、ダメって…」

ブルーベル、お話してるうちに、思い出して目が熱くなってきた。ぽろぽろって、涙がこぼれ落ちて、海に溶ける。

「ブルーベルは、海の泡から生まれたんだって、魔女が言ってた。だから、ちっちゃいブルーベルを育ててくれたのは、魔女よ。でも、魔女はもう千年以上生きたって言ってた。これ以上は、もう生きられないって…」

魔女も、海の泡から生まれたのかも知れない。
だって、息絶えてしまったら、海の泡になって消えてしまったから。

「ごめんね…つらいこと思い出させてしまって」

そっとブルーベルに話しかける、優しい声。
どうして?この子、今日ブルーベルに会ったばっかりなのに。
でも、この優しそうな子なら、知ってるかもしれない。

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