01
12月。
「にゅーっ!!もっとはやくかいておくべきだったわっ!!」
「何の事です?」
にゅっ、とブルーベルは1枚の紙を桔梗に見せた。
「びゃくらんが、11がつのうちにくれたのよ」
ザ・ジャパニーズ・年賀状。
「もうクリスマスを過ぎてますからねえ…。日本でも、年賀状は元旦…1月1日のことですが、その日に届けたければ12月25までと日本郵政も推奨しています」
「まにあわないじゃないのーーー!!!」
「間に合わない場合は、“寒中見舞い”ということにするようですよ」
……かんちゅうみまい。
「それって、このあかいハガキつかうの?」
「使いません」
「うわあああん!!ブルーベルはねんがじょうをだしたかったのよーーーっ!!!」
「入江にな」
ブルーベルは、ぶーっとミルクティーを噴いた。
そして、ザクロは盛大に被ったミルクティーを拭いた。
「なぁに今更動揺してんだバーロー」
「いまさらだとおもうんだったら、わざわざいわなくてもいいじゃないの!ずがいこつむいてやるバーロー!!!」
「ブルーベル、レディーの口癖ではありませんよ。入江正一に聞かれたらどうするのです?」
……もう、噴くミルクティーが残っていなかった。
「うわあああん!!桔梗までイジワルーーー!!!」
「アハハハッ、じゃー、僕が届くようにしてあげるから」
にゅっ?とブルーベルは白蘭をふりかえった。
「どうやって?」
「元旦に正チャン呼んじゃおうよ♪」
ブルーベルは、くらんとした。
「ちょっとびゃくらん!!がんたん、ってにほんじんにはだいじなひなんでしょ?イタリアではけっこうどうでもいいけど!!」
「でも、“ブルーベルが会いたがってるから絶対来てね♪”って連絡取れば、ホントに絶対来てくれちゃうよ」
あいたがってる…!!
「ブルーベル、あまりよろめくと椅子から落ちますよ」
ブルーベルは、体勢を持ち直すと叫んだ。
「これって、ゆうびんやさんがはこんでくれて、おうちのポストのぞくのがろまんなのよ!!」
そこで、桔梗がふむと考え込んだ。
「仮に元旦もしくは一般的に寒中見舞いの前に当たる期間に届けるとして、ブルーベルは彼の住所を知っているのですか?」
「…………」
ブルーベルは、ぽつんと呟いた。
「しらない……」
クリスマスカードは、直接その日に会ってプレゼント交換をしたので、そのプレゼントに添えることにしたのだ。
どうして、気が付かなかったのだろう?
いつか、ふたりで鈍行列車に乗って辿り付いた「並盛」には、正一がかつて住んでいたらしい家があって…それなのに。
(入江のおとうさんもおかあさんも、おねえさんも…)
(入江を、おぼえていなかったのよ)…
「…っ、びゃくらんは、いつもどうやって入江とれんらくとってるの?」
「んー、どうだろうね」
「ブルーベルがきいてるのよっ!!」
白蘭は、微笑した。
「ごめんね」
ブルーベルは、はっとした。
……入江と、おなじだわ。
(ブルーベルがきいてるのよっ!!)
(…ごめんね)
入江は、こまったようにわらって、わらうのに…
わらうのに、あやまるのに、そのさきは、ぜったいにおしえてくれない……
「クリスマスカードも直接だったんだから、年賀状も手渡しでいいんじゃないかな。正チャンが来てくれるのなら、確実に1月1日に届けられるし」
「……うん」
ふしぎで。
でも、かんがえないように、していたのよ。
かんがえてしまっても、きいちゃいけないって、おもっていたのよ。
(入江は、どこからきて、どこにかえるの)
(かえるばしょは、あるの…?)
きいてしまったら、もう入江にはあえなくなるようなきがして。
「じゃ、何て書こっか」
ブルーベルは、我に返った。
「クリスマスカードみたいに、だいたいこんな、みたいなぶんしょうってあるの?」
「あるよ♪こどもの場合、“あけましておめでとうございます”からはじめるのがいいかな」
「にゅっ!こども?」
「ガキもガキじゃねーか電波」
「ガキじゃないわよっ!ブルーベルはレディーよバーロー!!」
「ああ、入江限定のレディーな」
「……ザクロ、いい加減にしなさい。ブルーベルが眩暈を起こしています」
とにかく…!と、ブルーベルは思い直した。
これは、ザ・ジャパニーズ・年賀状。
「あけましておめでとうございます……でも、けっこうながいわ。それに、にほんのひらがなは、まるっこくて、かくとうねうねするのよ」
「んじゃ、漢字にしてみる?平仮名より真っ直ぐな線が多いから」
「びゃくらん、かんじしってるの?」
「話すのはカンペキで読む方は結構いけるけど、書く方は僕も苦手だなあ」
とりあえず、こういう時にはぐぐる。
〜賀詞〜
賀詞には多くの種類があるが、一般的に同僚や同年輩以外の年長者や世話になった相手には賀正、迎春などの2文字熟語は避けるのが慣わしである。
あけましておめでとうございます
謹賀新年
謹賀新春
恭賀新年
恭賀新春
恭頌新禧
敬頌新禧
新春万福
迎春万歳
献寿歳旦
慶雲昌光
瑞祥新春
永寿嘉福
賀正
賀春
迎春
頌春
慶春
謹んで新春のお慶びを申し上げます
謹んで新年のご祝辞を申し上げます
初春のお慶びを申し上げます
〜添え文〜
旧年中はお世話になりました。
本年も宜しくお願いします。
「平成○○年元旦」など日付を入れる。
・・・・・・・・・・。
ブルーベルは叫んだ。
「なにこれ!?ブルーベルいみわかんないわ!!それに、かくすうが、むやみにおおいわっ!!いやがらせなのっ!?」
「アハハ、イヤガラセじゃなくてさ、年賀状って、普通のお手紙よりもずっと丁寧なものなんだよ。だからこんなんなっちゃうんだよね。よく使われるのは、2文字なら賀正、迎春。4文字なら謹賀新年、謹賀新春、辺りかなあ」
にゅ…とブルーベルは一覧を見た。
「それで、このイヤガラセみたいにかくすうのおおいやつ、どういういみなのよ」
白蘭は、にっこーと笑った。
「大抵は“あけましておめでとうございます”を難しく言っただけだよ♪アハハハハ」
「…………」
ブルーベルは、自慢の長い青い髪を、きーっと掻きむしりたくなった。
「だったら、全部あけましておめでとうございます、でいいじゃないのジャッポネーゼのかっこつけーーー!!!」
[ 58/100 ][*prev] [next#]
[図書室68]
[しおりを挟む]