02

「ねえねえ、あんたって、ブルーベルに似た生き物って知ってる?」
「似た生き物…?」
「そうよ」

ブルーベルは、ちょっとだけだけど、ばしゃんってお魚のしっぽみたいな部分をみせてあげた。
「ブルーベルはね、半分だけ人間みたいな形で、もう半分はお魚みたいな形なのよ」

あ…また、ブルーベル、悲しくなってきちゃった……

「ブルーベルに、おともだちはいっぱいいるけど、ブルーベルみたいな<仲間>は、ひとつもいないのよ」

ブルーベル、泣き虫なんかじゃないのに。
きっと、このめがねの子のせいよ。

「ブルーベルは…だれにも、にてないのよ」

誰よりも速く自由に泳げるブルーベル。でも、海の泡から生まれたブルーベルには、お父さんもお母さんもいない。
いなくても平気なお魚の方がずっとずっと多いけど、ブルーベルには卵さえ無かったのよ。

「君は…、人魚、なんだね」
「え…?」

緑の目が、優しく笑った。
「人魚。僕も、小さい頃に絵本で見ただけだから、本当の人魚に会えたのは、君が初めてだよ」

…にんぎょ。

ブルーベルは、小さく口の中でくりかえした。
「にんぎょって、ブルーベルのほかにも、たくさんいるの?」
「それは…僕にもわからないんだ、ごめんね。でも、絵本に出て来た人魚は、海の国のお姫様で、お父さんは王様で、お母さんはお妃様で、何人かのお姉さんがいたはずだよ」

おとうさん…おかあさん。おねえさん…

「ねえねえ!その“えほん”とかいうの、見せてよ」
「僕の家にはないんだ。図書館にあるだろうから、今度持ってこようか」
「今度っていつよ」
「じゃあ…1週間後。その日なら、僕の学校が休みだから」

…いっしゅんかん。
…がっこう。

「何ソレ。知らないわ」

その子は、1週間は時間の数え方だって教えてくれた。1日は、おひさまが上って、沈んで、またのぼってくるくらいの時間。1週間は、それを7回繰り返す時間。

ブルーベル、あきれちゃったわ。
「人間って、そんなに細かい時間を気にするの?ブルーベルは、同じ季節が来たら1年よ」

それより細かい時間なんか、どーでもいーじゃないの。
ブルーベル、100年以上生きてるもの。それだって、魔女が教えてくれたからそうなのねって思ってたくらい。

「魔女も、1000年生きたもの。ブルーベルはそこまで長くないけど300年くらい生きるって言ってたもの。ホントは1年も短くってどーでもいいわ」
「…そうなんだ。人間は、100年生きればだいぶ長生きだよ」
「じゃー、何年生きるのよ」
「ひとによってだいぶ違うよ。だいたいは80年くらいだけど、100年生きる人もいれば、病気や事故でもっと早く死んでしまう人もいる」
「ふぅん…」

びょうき?
何それ……そう言えば、ブルーベルはなったことないけど、病気で死んじゃうお魚はたくさんいるわ。
事故…っていうのかな。お魚は、たくさん卵を産むけど、大人になれるのはほんのちょっとだけなのよ。小さいうちに、大きいお魚に食べられて死んでしまうから。

ブルーベルが黙ってたら、めがねの子はにこって笑った。
「1年でもあっという間なら、1週間ならすぐだね。1週間後のこのくらいの時間に、絵本を持ってまた来るよ
「このくらい…?の時間って、また何か短いのがあるのっ?」
「えぇと…人間では昼前っていう感じなんだけど、ここから見ておひさまがあのくらいに来た時」

ふぅん。てっぺんより、少し低いわ。

「いーわよ。1週間待ってあげる」
「あ…それから、あまり天気が悪くて波が荒い日は、僕は来られないんだ。その時には次の週にするよ」
「何言ってんの?空はおひさまのときもあるけど雨降りのこともあるし、波はふわふわしてる時もあるし、ざっぱんの時もあるのなんて、当たり前でしょ」
「当たり前なんだけど…人間は、波に攫われたら死んでしまうから」
「…………」

しょうがないわ。
この子死んじゃったら、<人魚>の絵本が見られなくなっちゃうもの。

「じゃあ、またね。ブルーベル」
「にゅ。ちゃんと絵本持ってきなさいよね。-----」

ブルーベルは、その子をなんて呼べばいいのか分かんなかった。
だって、今までお魚はお魚で、魔女は魔女だったんだもの。

「ちょっと待ってよ。あんたのこと、ブルーベルはどう呼べばいいの?人間、でいいの?」
「……入江正一」

いりえしょういち…

「長いわ」
「あはは、じゃあ、入江か正一か、どっちかでいいよ」
「あんたいいかげんなやつね」


(ぜったい、ブルーベルは、入江をひとりになんかしないんだから)

(ショーイチはショーイチでしょ。“おにいちゃん”ってよんであげないわ)


……いいかげんじゃ、ないわ。
本当に、どっちでも、たいせつな、なまえなんだわ……
でも、どうしてブルーベルは、そんなこと知っているの…?


「……ショーイチ」
ブルーベルは、そう言った。

「そう呼んであげるわ」
「…うん」

“ショーイチ”は優しく笑った。

「今度は、そう呼んでくれるんだね」
「え…?」

ショーイチは、行ってしまった。
不思議な気持ちがした…だけよ。

背中を見送るのが、イヤだと思ったなんて、気のせい。
ブルーベルは、ざぶんって海の中に潜った。
 

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