02
「僕の名前、覚えてないんだね」
そのひとは、やっぱりやさしくわらったけど、すこしさびしそうにみえた…のは、きのせい…?
「おぼえてないわよ。あんただれ?」
「……もう、覚えなくていいよ」
「なにそれ」
わらわないでよ。
ブルーベル、なんだかかなしくなるのよ。
「教えても、君は忘れてしまうから」
「にゅーっ!!ブルーベルがオコサマだとおもってばかにしてるのっ?」
「……違うよ。大切じゃないものは、忘れる。それだけだよ」
ブルーベル…なきそうに、なった。
だって、ブルーベルは、このひとのなまえをおもいだせないのは、「たいせつじゃないから」じゃないって、おもうのよ。
「じゃあ…、あんたは、びゃくらんの、なんなの?」
「それは…」
ねえ、こまってるの?かなしいの?
どうして、わらってくれるの?
「……親友、って、よばれていたことも、あるかな」
びみょうな、いいかた。
いまは、そうじゃないって、いってるの?
「しんゆう、ってなぁに?」
「…。とても、仲のいい友達のこと…」
そのひとは、しずかに、いった。
「きっと…。一生に、何人も出会わないような、特別な友達…」
「とくべつ…」
ブルーベルには、よくわからなかった。
「そんなに、とくべつになかよしなら、びゃくらんはあんたのなまえ、わすれないでしょ?」
「……今は、覚えているよ。でも、僕は白蘭サンにとって大切な人間じゃないから、いつか忘れると思う。……例えば、10年後くらいには」
(たいせつじゃないから)
やっぱり、ブルーベルは、かなしいっておもった。
「どうして!?とくべつななかよしのおともだちなんでしょ?それなら、びゃくらんもたいせつっておもってるよ!!」
「……君は、優しいね」
「やさ…し、い…?」
ブルーベル、おめめぱちぱちした。
「ブルーベル…それ、たぶん、いわれたのはじめてよ」
「そうなの?」
「そーよ。ブルーベルは、かわいいかわいいって、そういわれてみんなにかわいがってもらってるばっかりよ。いっぱいワガママいっても、みんなわらってゆるしてくれるの」
「……そう」
そのひとは、にこってわらってくれた。
こまって、ないわ。さびしそうじゃないわ。
ブルーベルは、うれしかった。
「だからね、ブルーベルは、なにをしてもいいのよ。にんげんを、いっぱい…」
ブルーベルは、わくわくしていおうとして、
(いっぱい…なに…?)
ブルーベルは、じぶんのてをみた。
(あかい…?)
ブルーベルのては、あかかった。
ぬるぬるした、きもちわるいものが、いっぱいついてて、ぽたぽたって、しずくがおちてた。
ブルーベルのしたには、……うごかなくなった、にんげんが…いっぱい。
これ、みんな、しんでる…?
(あかい、ちの、いろ…?)
「…ブルーベル!もういい!!」
なにがおこったのか、しばらくわからなかった。
……あったかい。
ぎゅって、だっこされて……
…。だっこ???
「にゅにゅーーーっ!!」
ブルーベル、そのひとのうでのなかで、じたばたした。
「なにしてんのよーーーっ!!」
べつに、おこってないわ。
ぎゅってされるの、うれしかったのよ。
でも、ほっぺたあかくなって、どきどきして、だから…
「にゅにゅーーーっ!!なによーっ!!----の、…」
(----のくせにーーーっ!!)
(あはは、ごめんね)
ブルーベル…じたばた、やめた。
だって…、まただわ。
また、ブルーベルは、このひとのなまえ、いえなくて……
「…ふ…え…っ」
ぽろぽろ、なみだがでた。
「ちがう…ちがうよ!たいせつじゃないから、わすれちゃったんじゃ、ないもん…!」
いっぱい…いっぱい、たいせつなのに、おもいだせない…、おもいだせないの…!
うわああんって、ブルーベルはないた。
「ブルーベルが、ちっちゃいから…?だったら、ちっちゃいブルーベルなんか、いらない!!みんなが、いっぱい、かわいいっていってくれても、…わすれちゃったままの、ブルーベルなんか、いらない…いらない!!しんじゃえ!!」
ブルーベルが、ブルーベルを、ころせばいいんだ。
まっかに、いっぱい、ちをながして…!
「……入江、正一」
ブルーベルを、ぎゅっとしたまま、そのひとがいった。
「僕の…名前だよ」
(入江のくせにーーーっ!!)
(あはは、ごめんね)
……おもい、だした。
まっかになってさけぶブルーベルと、なにもわるいことしてないのに、ごめんねって笑ってくれる、…入江……
ぎゅっとしててくれたのが、ふっとはなれて、ブルーベルは、…さびしいって、おもった。
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[図書室68]
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