01

「にゅーっ!せっかくスキー場に来たのに、どーして見学してるのよぅっ!!」

正一は、困った様子で言った。
「約束は守ったよ?」
「いっしょに行く!って言ったらいっしょにすべるのに決まってるでしょーーーっ!!!」

つまり、白蘭がみんなでスキーに行こうよ♪と言い出して、+真6弔花に加えて正一も誘われた次第。

〜Reply〜

「ねーねー、正チャンもいっしょに来てくれるよね?」
「…………白蘭サン、嫌がらせですか?いえ、嫌がらせですよね。訊いた僕がばかでした」
「えー?嫌がらせじゃないってばー。ブルーベルは泳ぐのも上手だけど、スキーも上手なんだよ?」
「メダルを取れるレベルなんですか?」
「にゅ…悔しいけどそれはムリよ。でも、フツーに上手いわ」
「僕にとっては、上手いことが既に普通じゃないんだけど…」
「なぁにgdgdしてんだバーロー。お前が来ねえと、電波が不機嫌になってうぜーんだよ」
「ザクロうるっさあぁぁい!!!クレバスにつっこんで頭蓋骨割れろ!!!」
「……クレバスがあるほど秘境に行くのかい?」

……その後色々こじれたので以下略。
とにかく、正一は「一緒に行く」ことを了承した。ごく普通のスキー場に。

「見学がダメなら、そこでデイジーが雪だるま作ってるの手伝ってるよ」

ブルーベルは、当然に不機嫌になった。
正一が一緒に来たからこそ不機嫌いなった。

「どーして雪だるまなのよーーー!!!スキー場って言ったらスキーなのよ!!そこでびゃくらんがカッコ付けにスノボなのはわきにおいといて、とにかくスキーでしょっ!!」
「ブルーベル」

桔梗が言った。
「理由は明白です。入江正一にはスキーが不可能だからです」

・・・・・・・・・・。

ブルーベルが、ムンクの叫びのようなポーズで、にゅーーーっありえないぃぃぃ!!!と叫んだのと、正一が、不可能…正しいけど、せめて普通に出来ないとか滑れないとか言ってくれればいいのに…と遠い目になったのはほぼ同時だった。

「ありえない!!ありえないわ入江!!そこでそり遊びしてるちっさい子ならともかく、おとなはみんなちゃんと滑ってるじゃないのっ!!」
「……それは、滑れるようになった人しか、スキー場には生き残らなかったからだよ……」

スキーは、まず歩き方だの転び方だのを教わり、次に滑る段階になったら、まず覚えるのはボーゲンだ。

「ぼーげん?」
「ほら…、スキーの板をV字型にして練習している人達がいるだろう?」

そう。ボーゲンは、「滑っている」というよりも、見かけ「練習している」感が満々だ。

「ボーゲンから、板を揃えてパラレルに移行するんだけど」
「パラレルワールド?」
「いや…そうじゃなくて。普通に“並行”っていう意味だから」

V字から、板を並行に揃えて滑る。これが、「出来ない」人達には心折れそうな難関なのだ。
というか、本当に心折れるのだ。

どうにか斜め方向にパラレルで滑れるようになっても、ターンするときにはどうしてもボーゲンに戻ってしまう。
この壁は、何度か頑張ればスルッと乗り越えられる人もいるが、出来ない人は100回滑っても100回ボーゲンになり、懸命にやっているのに出来ない、という体験を積むうちに、楽しんでいる周囲の人々と、自分は違うのだと思い知らされる。
皆が上手にターンできているのを不思議に思っている間はまだいい。あまりの出来なさに、挑戦しがいのある難しさの限度を超えて、苦悩の域に入ってしまう。

こうなると、もうスキーは楽しいものではなくなる。
大袈裟でなく絶望すら感じてスキー場から去り、誘われても渋るようになり、二度と戻って来ないのだ。

「ぜつぼう〜?おおげさだわ」
「……大袈裟じゃないよ。実際、ああやって今ボーゲンをやってるひとたちの何割かは、いずれスキー場に来なくなる。自分は出来ない、って何度も思い知らされるのはイヤだからね」

ブルーベルは、記憶を辿った。小さい頃にスキーに来たが、ボーゲンというものをやった記憶がないのだ。
「ブルーベル、ボーゲンやらないで、いきなりまっすぐだったわよ。入江もまっすぐすれば?」
「それって…加速が付いて、猛スピードだったんじゃない?」
「かそく?」

……は、よくわからないが、ブルーベルにも覚えはある。盛大にザシャアァァ!!!と転んだり、スキーコース脇の雪の壁に激突した、という、屈辱の思い出が!!

「ブルーベルは、それでもすぐにすいすいすべれるようになったのよっ!!」
「すぐに…かぁ」

正一は、苦笑した。
「僕も、それなりに頑張ったんだよ。…でも、全然ダメで、……せっかく家族で遊びに来たのにね、何だかつらくなってしまって、諦めたんだよ」

ブルーベルは、少し黙った。
家族で遊びに…の部分が引っかかったのだ。

いつか、鈍行列車で正一の家の近くに行った。
でも、正一の両親と姉は、正一とすれ違っても、気が付かなかった。

(入江を…おぼえてなかったのよ)

「だったら、もうつらいのはやめて、楽しくすればいいじゃないの!!」

きっと、正一の両親は、どの程度上手だったのかはわからないが、一応は楽しく滑ることが出来るから我が子を連れて行ったのだろう。正一の姉も、滑るようになれたから、何回出掛けたか分からないけれども、正一が頑張って練習したという程度には、定番の冬の家族イベントだった時期があるのだ。

子どもの頃の正一が、ひとりだけ出来ずにぽつんと取り残されていたのなら、ブルーベルはその正一のさびしくてつらい思い出を、今日の新しい思い出で塗り替えてあげたいと思った。

「にゅっ!入江!!出来なかったのって入江がこどものときの話でしょ?おとなになったんだから、ネバーギブアップよ!!」

ビシィ!!とブルーベルが指を突き付けると、正一は目を瞬いた。

「……わかったよ」

根負けした表情で、正一は立ち上がった。
 

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