December 3

 
「不本意だわ」
「何が?」
「ファミレスだっていうことよ」

ブルーベルは、可愛らしい顔でふくれた。
「でも、ブルーベルにもわかってるのよ。ろまんちっくなレストランでお祝い、なんて入江には似合ってるけど、お子様のブルーベルにはまだ早いの」
「僕はファミレスでもいいよ。君がお祝いしてくれるのなら、どこでも」
「それ、絶対入江は言うと思ったわっ!!100%ブルーベルの予想通りよ!!入江なら、おでん屋の屋台でもOKなのよ!!」
「えっと…。何だかごめん」
「にゅーっ!!お祝いされるひとが、ごめんなさいしちゃダメなのーっ!!」

正一は、とにかく今日は何でもブルーベルの言う通りにしようと思った。
今日は、正一の誕生日なのだが。

「ブルーベル、おとなの入江のお祝いをするのにいいかんじの、ロマンチックなレストランって知らないわ。ブルーベルが背伸びしたがると、結局びゃくらんおすすめのレストランをびゃくらんが予約して、全部びゃくらんになっちゃうのよ。ただでさえ、お財布はびゃくらんなのに」

……今日の食事は白蘭サンの財布なのか。でも、ブルーベルが会計をするのは、お店のひとに不審な目を向けられそうな気がする…

「そういうわけだから、取りあえずファミレスは不本意だけど、入江はお腹いっぱい食べてね。入江らしく一番安いものとか選んじゃダメよ。お値段は気にしなくていいわ。びゃくらんのお財布は四次元ポケットよ」
「四次元…」

正一は、何となく遠い目になったが、ブルーベルが不機嫌にならないように、そこそこの値段のものを選んでおこうと思った。

「もうひとつ、不本意よ」

今度は、何なんだろうか。

「ケーキがまるくないわ」

確かに、メニューに載っているのは、既に切り分けられた形だ。

「君とふたりなら、丸いのは大きいし、僕はこれでいいよ。いちごのショートケーキなら、雰囲気だけでも誕生日らしくなるかな」
「いちごはそうね。でも、ブルーベルはまるいケーキに、入江の年齢分のろうそくを、どすどす刺してみたかったわ」
「そう…どすどす……」

そう言えば、ブルーベルの10歳の誕生日には、大きいロウソク1本では寂しいので、いっそ華やかなのがいいと、年齢分の小さいロウソクをどすどすやったのだった。

「僕の年齢分だと、火を付けるのが大変そうだね」
「…………」

ブルーベルは、気が付いた。
正一の誕生日は白蘭が教えてくれたけれども、年齢は知らないのだ。

虹の代理戦争のときに出会った正一は中学生だと言っていたし、未来では正一と白蘭は同じ大学にいたけれども、正一の方が後輩で、いくつか白蘭が年上であるらしい。

この世界で出会った正一は不思議な少年で、成長して不思議な青年となった。
でも、ブルーベルにはよく分からないのだ。本当に、ブルーベルと正一は、同じ時間の中で生きているのだろうか?

正一は、森を通って日本とイタリアの距離を縮めて渡ることが出来るようだし、綺麗な花が咲く場所や、海に連れて行ってくれたこともある。

かつて、白蘭は並行世界を渡る特殊な能力を持っていたのだけれども、今も常人にはない不思議な力を持っているままだ。その親友の正一は、<あの未来>では優れた頭脳を持つ以外は普通の人間だったらしいのだが、この世界の正一は、白蘭とは違うやり方で時空を超える存在なのだと思う。

「どうしたの?」

正一に柔らかく問い掛けられて、ブルーベルは我に返った。

「な、何でもないわっ!」

今日は、正一の誕生日なのだ。自分が不安そうな顔をしていてはいけない。
今日は笑顔…!笑顔よブルーベル!!

「お料理決めて、入江」

メインのお料理と、食後はコーヒー、紅茶、いちごのショートケーキ2つ。
店員を呼ぼうと、ブルーベルはボタンを押そうとして、直前で止まった。

「どうしたんだい?」
「入江!」

ブルーベルは、ビシィ!と正一を指差した。

「ボタン押してピンポンするの、特別にゆずってあげるわ!!」
「…………」

正一は、黙った。
そういえば、小さい頃からブルーベルはこのボタンを押すのが好きだった…

「ブルーベルが押してもいいよ?」
「にゅっ!ブルーベルの好意をむだにするのっ!?」
「…………」

沈黙、5秒。

そして正一は、柔らかく笑った。
「ありがとう」
「…………………………………」

ピンポーンという音を聞きながら、ブルーベルはテーブルに突っ伏した。

そうよ…!入江はおとなのおとこなのよ。
ピンポンゆずっても、喜ばないわ!!
でも、そこでにっこり笑ってくれるのが、おとなの入江クウォリティなのよ…!

「ブルーベル、どうかした?」
「うわあああん!!どうかしたわよーーーっ!!!」

しばらくすると店員がやってきて、正一は注文をした。

「ね、ブルーベル。顔を上げてくれるかな」
「どーしてよ」
「どうしてって…。君を見ていたいから」
「…………」

ブルーベルは、絶対ほっぺた真っ赤だわ…!と思いながら、がばと顔を上げた。
「誕生日までころしもんくーーー!!!」

くすり、と正一は笑った。
「今日は、“入江のくせに”って言わないんだね」
「何でわらうのっ!?じゃー、次から言うわよっ!!」
「いいよ」
「…………」

正一は、優しく笑っている。ブルーベルは、

「ブルーベル、全然わらえてないーっ!!」
「僕の為に、笑おうとしていてくれたの?」

正一は、やはり柔らかく笑った。
「ありがとう。嬉しいよ」
「どーして?ブルーベル、ちっとも上手にできてないわ」

ほら、今だってそうよ。
自分で自分にハートブレイクで、いじけた声といじけたお顔になっちゃってるわ。

「入江は、どうして上手に笑えるの?」
「え…?上手かなあ」

正一は、また笑ったけれども、今度は困った様子で言った。

「僕、初対面で、白蘭サンにいきなり暗いメガネって言われて、ブチ切れたことあるんだよね」
「…………」

びゃくらんなら、それこそ笑って言いそうだわ…

「まあ、白蘭サンほどハッキリ言わなくても、僕をそう思っていた人は多いと思うよ。話してみたら案外ガリ勉じゃなくてゲーマーだった、って言われたことが何度かあったから。でも、そう言われるくらいだから、元々にこやかなタイプじゃないよ」
「でも、ブルーベルには笑ってくれるじゃない」
「笑ってあげてるっていうより…」

緑の瞳が、ブルーベルを見つめた。

「きっと、君と一緒にいると、嬉しいからだよ」
「…………」

にゅにゅーっとブルーベルの叫びがレストランに響き渡った。

「入江のくせにころしもんくーーー!!!」
「あはは、でも本当だよ」

嬉しいからと、正一は笑う。
それなのに、ブルーベルはなかなか素直になれない。

「でもね、笑おうとすると、上手く出来ないっていうのは、僕も分かるな」
「そうなの?」
「うん。僕、カメラ向けられて、笑ってって言われると、何だか身構えてしまうんだよ」

だから、リラックスしていていいよと、もし向かい合っているテーブルが小さかったなら、優しい手は頭をぽんぽんとしてくれるのだろうか。

「ケーキ、初めに運んでもらえばよかったわ」
「どうして?」
「その方が、誕生日っぽく、おめでとうって言えたのに」
「今、言ってくれたけど?」
「…………」

確かに、さらっと言ってしまった、かもしれない。

「あのねっ!どさくさにまぎれるんじゃなくて、ちゃんと言いたかったのっ!」
「僕はいつでもいいよ」
「…………」

そうよ…!そうだわ、ブルーベル。
今日、お顔を合わせてすぐに、お誕生日おめでとうって言うこともできたのに。

……ううん。あのタイミングはダメだったわ。
びゃくらんだけじゃなくて、珍しくデイジーまで(・∀・)ニヤニヤしてたんだものっ!!

でも。
入江の言う通り、伝えたいのなら、いつでも言えばいいのよ。
きっと、少しの勇気を出せばいいの。

「…入江。おたんじょうび、おめでとう」
「ありがとう、ブルーベル」

入江が笑ってくれて。やっとブルーベルは伝えられて。
嬉しくて、笑った。

「……本当だわ」
「何が?」
「ブルーベルも、嬉しいの」

素直に伝えられたことが。正一が笑ってくれたことが。
今日が、正一が生まれて来た日だということが。
全部嬉しくて、笑った。

「ブルーベルは、いっぱい嬉しいのよ」
「君が嬉しいって思ってくれるなら、僕も嬉しいし、幸せだよ」
「…………」

ブルーベルはにゅにゅーーーっ!!と叫んだ。
「嬉しい、に幸せだよ、をくっつけるとか、入江のくせにころしもんくーーー!!!」
「僕だけ幸せだったら、ごめんね」
「うわあああん!!ちっともごめんねじゃないでしょーっ!ずるいわおとなのよゆうーーーっ!!」

ブルーベルは、また突っ伏したくなったけれども、勇気を出して、正一を見つめた。

「あのね…」



ブルーベルも、幸せなの。





〜Fin.〜
 

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