World

  
「本を読んでたんだ?珍しいね」
「にゅっ」

入江はにっこりだったんだけど、いっつもびゃくらんにジャパニーズ・MANGAばっかり借りてるブルーベルは、ちょっときまりがわるかったわ。

「たまには、ジャパニーズ・MANGAじゃなくたっていいでしょっ!」
「別に、僕はマンガでもいいと思うよ。気軽に読めるものから、名作って呼ばれるものまで色々あって、世界が広がるのは、活字の本とあまり変わらないのかもしれないね」

未来では天才科学者入江。今はどうなのかしらないけど、でも何だか意外、って思った。

「入江の天才な脳内では、文字だらけの本の方がえらいんだと思ってたわ」
「そうでもないよ。僕は勉強ばっかりじゃなくって音楽も聴いてたし、白蘭サンと張り合うゲーマーだったし」

入江が、今でも音楽がすきなのは、知ってるわ。

「今でもゲーマー?」
「……そうでも、ないかな」
「飽きちゃったの?」
「……ごめんね」

入江、黙っちゃった。
いつもみたいに、困ったお顔で笑うこともしない。

ブルーベル、入江が傷付くこと、言っちゃったのかな。
それって、未来で入江とびゃくらんが、たぶん…いのちがけの<チョイス>をやったことに、関係してるのかな。

でも、入江が自分が悪くもないのに「ごめんね」っていうのなら、入江はそれ以上教えてくれないの。
でも、今日のブルーベルは怒っちゃダメよ。いつもみたいに困ったお顔で笑うこともしないのなら、ブルーベルはただ、入江のそばにいてあげればいいの。

(君が来てくれたから、僕は寂しくないよ)

寂しくないお話…ってないかな。
「入江、“世界が広がる”ってどういうこと?入江が、世界的な科学者になるかんじ?」
「え…?」
「さっき、入江が言ったんだよ。文字だらけでもMANGAでも、世界を広げてくれるって」

入江が、やっと笑ってくれた。
それが、やっぱり困ったお顔でも。

「井の中の蛙大海を知らず、なんていう言葉があるくらいだからね」
「にゅ。ブルーベル、かえるじゃないわ。オリンピックっていう世界へ飛び立っちゃうのよ。…ちがったわ。ブルーベルは七つの海を泳ぐ勢いの人魚なのよ」
「うん。それが、君には似合っているよ。…君の夢も、必ず叶うよ」

入江は、優しく笑って、優しい言葉をくれる。
でも……なんだか、入江自身のことはそうじゃないんだ、って言っているみたいに聞こえた。

「入江は、世界的な科学者?びゃくらんが、言ってたよ。未来の科学技術をおぼえてるから、ノーベル賞取っちゃうレベルだって」
「……多分、そうはならないと思う」

入江は、静かにそうこたえた。
ブルーベル、また、入江が傷付くこと、言っちゃったのかな…って思ってたら、入江が続けた。

「世の中、何でもグローバルなものがもてはやされる時代になってしまったけど、僕はそうじゃなくてもいいと思うんだ」
「どーして?」
「例えばね…。伝統工芸家が昔ながらの品物を毎日毎日作っていたり、農家が先祖代々の田畑を守って生きていたり、女性としては時代遅れって言われても、結婚して子供の世話をして、家事をする毎日を送るだけで、それ以外の世界を知らずに家の中で完結していたとしても……。そんなひとがいても、いいと思うんだよ。…そんな、箱庭のような小さな世界を、幸福だと思って生きられるのなら」

入江が、ブルーベルの髪の毛をそっと掬い取ったから、とくんって胸が跳ねた。

「僕は、君と違って、世界の表舞台に立つことはないと思う。……でもね、僕の傍に君がいてくれるのなら、僕はその小さな箱庭のような世界で、幸せだと思いながら生きていけるんだ」

優しい緑の瞳が、優しく笑った。

「僕には、君だけでいいんだよ」

ブルーベルは。
少し黙って、入江を見つめ返して、かーって真っ赤になっちゃった。

(君だけでいい)

「入江…それ、ちいさくないわ」
「何が?」
「かなり壮大な箱庭だわ!うちゅうよりも、でっかい愛よっ!!!」
「…………」

入江は、少し驚いた顔をしてブルーベルを見た。

「入江っ!なんでわらうのよっ!!」
「愛、なんて君の口から聞くのって、あまりないから」
「だからっ!わらわないでほしいのよっ!!ブルーベルだって、ウッカリ言っちゃってはずかしいのよっ!!」
「じゃあ、僕はウッカリじゃなく伝えるよ」

入江の手から、ブルーベルの青い髪がさらりとこぼれ落ちて。

「僕は、君を愛しているよ、ブルーベル」

思わず目を閉じたら、唇に、そっと柔らかい感触がした。

「〜〜〜〜〜っ!!」
「うっかり、じゃないよ?」

ブルーベルは真っ赤なのに。入江は優しく笑ってる

「どーして、いっつもブルーベルばっかり真っ赤で、入江はよゆうなのよっ!入江のくせにーーーっ!!」
「あはは、余裕かな。…でも、君にそう思って貰えるのなら、謝らないよ」






入江が幸せだって言ってくれる箱庭には、幸せなブルーベルが生きているの。





〜Fin.〜

 

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