01

 
(バラはね、品種改良でたくさんの色のバラが創り出されたんだ。…でも、どうしても実現しなかった色がある)

(……それが、青。青いバラだけは、どうしても創れなかった)

(-------は、自然に生まれてきた花だよ。でも、色とりどりのバラの多くは、そうじゃない)
(人間の手で、いくつものバラを掛け合わせて、どうしても実現しなかった青のバラは……)

(ひょっとしたら、神様だけのバラなのかも知れないね)



「…だ、れ…?」

うずくまってた私は、ふとつぶやいた。
そして、その声を、久しぶりに聞いたと思った。

私の、自分の、声。
だって、私の声は、長い間、いらなかったから。
私は、もう思い出せないくらい前から、独りでここにいるから。

誰もいない。話しかけてくれる人は、誰も。
だから、私は長い間、自分の声を忘れていたの。

……何の夢を、見ていたんだろう?

さっきまでのことなのに、よく、思い出せない。


(神様だけのバラ)

「あ…」
そこの部分だけ、思い出した。

私がいる場所に、いっぱい咲いているからなのかな…

私は、青い世界にいる。
真っ暗なのは、空だけ。空には、青い月が冷たい光を放ってる。

その月は、上ってきて沈んでゆくし、満ち欠けもする。それが、何度くりかえされたのか、多分私は初めは数えていたと思うけど、途中で数を見失って、やめてしまった。

月はそうして空に訪れるけど、真っ暗な空には、おひさまが輝くことはない。

(おひさま…)

私は、わからなかった。
おひさまの光をあびたいのか、それとも、優しい春のおひさまに似てる何か…に出会いたいのか。

でも、どちらでも同じ。私は、「かみさま」にここに連れてこられて、閉じ込められているんだもの。

理由は、私が、「とても悪い子」だから。
私の罪は「許されない」ものだから。

ここに閉じ込められる前のことは、とてもとても遠い記憶で、自分のことなのに、あいまいにしか思い出せない。

ただひとつ、今でも私がはっきり覚えているのは、「赤」を取り上げられたんだっていうこと。

そのとき、私の手は、赤い血にぬれていた。
私の足元には、汚らしい赤い血にまみれた醜い屍体が、数え切れないほど折り重なっていた。

私は、笑っていたわ。
面白くて、楽しくて、笑ってた。

私は、いっぱい殺してた。それを、悪いことと思ったことなんか、いちどもなかった。

「かみさま」が、私の前に現れて、私は「悪くって」、その罪は「許されないもの」なんだって言うまでは。

私を閉じ込めた「かみさま」が、どんな姿をしていて、どんな声をしていたのか、私は覚えていない。
でも、私は本当に許されないまま、ずっとここにひとりでいる。

ここは、全部が青いところ。
私が来ている、コットンレースのワンピースは水色で、後ろをリボンで結べるのが、とてもかわいいの。
くつは、深い青色のバレエシューズ。

ワンピースもくつも、とてもかわいくてすてきだけど、どうしてかなあって私は思う。
だって、おしゃれしたって誰も見てくれないのに。

気が遠くなるほど長い間、私はここにいると思うのに、私の体は成長していない。
服もくつも、きゅうくつに感じたことはいちどもないから。

そして、私の周りには、青いバラの花が、たくさん咲いてる。
私のワンピースみたいに淡い水色だったり、くつみたいに深い青だったり、もうずっと見ていない空の色だったり、海の青だったり……色々だけど、全部全部、咲いているのは青いバラ。

青い、青い世界。
違うのは、真っ暗な空だけ。

空が真っ暗なら、月の光だけじゃ足りないはずなのに、私の姿もバラの花もよく見えないはずなのに、不思議に青だけはくっきりとよく見える。

全部、青い。
私の長い髪も、鏡はないけど、きっと目の色も。

……ううん。いちどだけ、この世界で「赤」を見た。

閉じ込められているのがイヤで、バラをかき分けて逃げようとしたときに。
バラはとてもきれいな青なのに、きっと私を嫌っているの。だって、私を通してくれなかった。

バラにはとげがいっぱいで、私の長い青い髪も水色のワンピースも引っかかって、私の腕はたくさんの切り傷が出来て、赤い血が滲んだ。

痛かった。血の赤が、気持ち悪かった。

私は、逃げようとするのを、やめた。
でも、痛かったのは、理由じゃないの。

人間の血が赤いなんて当たり前のことなのに、あのとき見たのは自分の血なのに、気味が悪かったから。

血の赤い色が、怖かったから。

だから、私はそれから、何もせずにずっとここにいる。
…ひとりで。

ヘンなの、って私は思ったことがある。
「かみさま」が私を許せないのなら、殺しちゃえばよかったのにって。

でも、ずっとひとりでいるうちに、私は気が付いた。

「ひとりでいること」が、かみさまが私に与えた罰なんだ、って…

私がいっぱい殺した人間みたいに、ひと息で死ぬことなんか、許さないって。
いつまでもいつまでも、ひとりで生きろって…

私は、はっと思い出した。
そうだ…、私は、何もせずにここにいたわけじゃ、なかったのよ。


(出して…!ここから、出して!)

(お願い…出して、かみさま、お願い…!)

(ひとりは、イヤ。ひとりなんて、イヤ、イヤ…!)

(ゆるして、-----を、ここから、出して)

(ひとりはイヤ、出して、出して、出して)

(かみさま…!!)


私は、泣いて叫んだ。
涙がかれるまで。
声がかれるまで。

でも、返事は、なかった。
私を閉じ込める、花の檻のようなバラが、そのまま綺麗に咲いていて。
辺り一面に、うっとりとするようなバラの香りが満ちていて。

だから、私の声は、いらなくなった。
私の涙も、いらなくなった。

青い、青い世界なのに。
私の青い目からは、水がなくなった。

そして…そのときに、ひとつ思い出した。

かみさまは、白じゃない。光じゃない。

あの青い月がのぼる空みたいに。
かみさまは、「真っ黒」だったのよ…
 

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