02

ニットカーディガンだもの。冷たい風が毛糸を通りぬけて、すぐにブルーベルのからだを冷たくする。

ひどいよ、こんなの。
もう、寒い季節なのは、ブルーベルだってしってるわよ。でも、ここ何日かあったかい日が続いてたから、今日は絶対にこのカーディガンなの!って決めてたのに。

どんより空は曇り空で、風はビュービュー強くって、

「にゅーっ!ブルーベルの美麗な美髪が、メデューサみたいじゃないのーーーっ!!」
「君まで、美麗とか美髪とか、自分で言うようになったんだね……いいけど」
「何を遠い目になってるのよ入江っ!いいにきまってるでしょっ!ほんとうのことだわっ!」
「うん。僕も本当だと思うよ」

やさしくにっこりして、乱れたブルーベルの髪を指ですいてくれて…ブルーベルはほっぺた赤くなって…

「にゅーっ!入江の天然タラシーっ!!」
「天然でもタラシでもないんだけどな。僕は、君以外の女の人の容姿やおしゃれを褒めたことってないよ。そんなにモテるタイプでもないし」
「にゅっ。そんなに、っていうモヤモヤした感じって何?入江、告られたことあるでしょ」

入江は、ん…って首を傾げた。
「えぇと…毎年、バレンタインデーのチョコがひとつかふたつ、あるくらい?」
「十分モテてるじゃないのバカーっ!!」

なによ、なによ、なによ。
ブルーベル、こどもなのに。入江は高校生はおとなじゃないよっていうけど、ブルーベルから見たらおとななのに。

「……不安に、ならないで。僕にはすきなひとがいるからって、断ったよ」

ぎゅって、抱き締めてくれて。
ふわって、あったかくなった。

……入江のジャンパー。

「おしゃれしてくれたの、ちゃんと見たから、今はこれ着てあったかくしてて」
「あ…あったかいけどっ!ブルーベルは、気合いで街を歩くのよっ!!」
「気合いはいらないって言ったよ?それから、今は着ていて、って」
「今は…?」

街に行こうと思ってたのに、入江は森の中に入っていく。

「にゅーっ!入江が森をすきなのは知ってるけど、今日は街よっ!!」
だって、今日はブルーベルが自分でえらんだ可愛い服を着て、ちょっと得意な気持ちで街を歩きたかったのよ。

「知っているよ。ちょっと特別な道を行くだけ」
「…………」

入江は、不思議なの。
森を歩いて、色々なところに連れて行ってくれる。
ブルーベルは、入江のこと、知ってるようで…知らないのよ。

以前、入江の高校の学園祭に連れて行ってもらった。…とても、びっくりした。だって、高校生って言っていても、ブルーベルは入江のこと、森の中で出会うふしぎなひと、って思ってたから。

その森は、日本の森のことも、イタリアの森のこともあって、まるでつながっているように歩いて行ける…連れて行って、もらえる。
きれいな花が咲く場所があったり、急に海に出たこともあった。

今でも、知らない。入江が、どこに住んでいるのか、どこに帰っていくのか。
ブルーベルは、何も……

「どうしたんだい?ブルーベル」
「あ…あのねっ、ブルーベルは、入江のこと、よく知らないわ。もし、入江がブルーベルに知って欲しいのなら、きくわ。でも、そうじゃないなら…きかないでいてもいいの」

(だって、僕は独りだったから)

(でも、君が来てくれて、僕は独りじゃなくなったから。君は悪い子じゃないし、要らない子じゃないよ)

「ブルーベルは…、入江のこと、知らないまんま、すきでいるの!ブルーベルが、自分でそうきめたのっ!」
「……うん」

ブルーベルは、勇気がいっぱい必要で、だから何だか怒ってるみたいに叫んじゃったんだけど、入江は嬉しそうに笑ってくれた。

「ありがとう。僕も、ブルーベルが好きだし、幸せだよ」
「……ブルーベルも、しあわせよ」

ほかほか、こころが、あったかい。入江の、上着みたいに。

「でも…入江の手が冷たいよ。さむいでしょ?」
「平気だよ。ブルーベルが寒いよりもずっといいよ」

あ、れ…?
この会話、いつか、どこかで…

「この時じゃないかな」
まるで、入江がブルーベルの心を読んだように言った。

「あ…!」

いつの間にか、森が途切れていた。
桜の、花。大きな大きな木に、うすべにいろの雲みたいに、いっぱい桜の花が咲いていて、少しだけ花びらが舞い落ちていた。

思い出した。
ブルーベルが、もっとちいさいとき、入江がお花見に連れて行ってくれたこと。あの日も寒くて、「花冷え」っていうんだって、教えてくれた。寒いからって、入江の上着を貸してくれたの。

「あのときは、8部咲きだったけど、今は満開だね」

入江が桜の木に手を差し出すと、てのひらに淡いピンク色の花びらが、そっとおりてきた。

ブルーベルは、気が付いた。
寒いけど…ひらり、ひらりって、ゆっくり花びらが落ちてくるくらい、もう強い風は吹いていないんだって。

「ここは、“春”だよ。だから、僕たちの季節に戻ろうか」

戻るって言ったけど、入江はブルーベルの手を引いて、前に歩き出した。その先には、ちょうどふたりがならんで歩いていけるくらいの道がつづいてゆく。

「…ブルーベル、森の中も、好きよ」

入江と、ならんで歩くのなら。
ブルーベルが、とことこ急がなくてもいいように、入江がゆっくり歩いてくれるのを、感じながら。

「また、<誰もいない場所>にいくの?」
「違うよ。ブルーベルは、街に行きたいんだろう?」
「ブルーベルは、森の中もすきって言ったよ」

ちょっと、勇気を出したのに。
今日のカーディガンを着て歩くのなら、賑やかな街がいいって思ったけど、入江と一緒なら、ブルーベルはどこでも幸せなの、って伝えたくて。

くす、って入江が笑った。
「僕も好きだよ。…君と一緒に歩くのなら、どこでも。静かな森の中でも」

伝わったんだって、入江もブルーベルと同じ気持ちでいてくれたんだって、とくんって心臓が鳴ったとき、急に目の前が明るくなって、とっさに目をかばった。

「君と一緒なら……どこでも、すてきな風景に見えるよ」

入江の声に、ブルーベルは目を開けた。
人通りの多い、賑やかな街の中。石畳の道に、枯れ葉が落ちてる。
秋のおわりで、冬のはじまりの、街角。
澄んだあおぞら。あったかいおひさまの光。

「もう、上着を脱いでも寒くないはずだよ」

入江が笑ってくれて、ブルーベルは入江が貸してくれた上着を、もぞもぞ脱いでみた。

「…さむく、ない」

カーディガンだけで、大丈夫。
道を行く人も、だれも厚着をしてない。

きれいに晴れた空を見上げながら、入江が言った。
「日本ではね、11月下旬前後の、こういう暖かい日のことを、小春日和、っていうんだよ」
「…こはる、びより」

何だか、やさしいことば。

「こんな日なら、君のカーディガンが似合うと思ったんだ」

入江も、シャツの上にトレーナーだけで、さっきまでブルーベルが着ていたジャンパーは、繋いだ手の反対の腕に引っ掛けてる。

「どこに行こうか」
「イタリア的には、冬でもジェラートよ」

あたたかい街を手を繋いで歩きながら、もう入江の手も冷たくないんだって、気が付いた。

入江の手も、おひさまの光も、やわらかい風も、ぜんぶあったかで。にぎやかな街をふたりであるくのは、うれしくって。

「…でも、おしえてあげないわ」
「そう」
「にゅっ!入江、はんのううすっ!」
「だって、言いたくないんだろう?」

入江、おんなごころをわかってないわ。

「ちょっとは知りたそうにしてよっ!」
「……じゃあ、教えてくれるかい?」

やわらかい風みたいにわらってくれるから。
つないだ手があったかいから。

「とくべつなんだからね!」
「うん、ありがとう」

ほっぺたあかくなって。少し、ゆうきがいるのよ。

「…入江の上着、もうちょっと着ていたかったなって…、思ったの」
「…………」
「ちょっとだけ、だからねっ!」
「うん、ちょっとだけなんだね」
「にゅーっ!どーしてわらってるのよーっ!!」
「嬉しいからだよ」




……ふたりであるく、すてきな、こはるびより。






〜Fin.〜

 

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