01

「紹介するよ。僕の副官で親友の入江正チャン。仲良くしてね」

白蘭の隣で、緑の瞳の青年は、微かに笑ったのかも知れなかったし、静かな憂いの表情であるようにも見えた。
ただ、その声は穏やかに柔らかかった。

「よろしく。これから僕は、白蘭サンの味方になる」

真6弔花の面々は、それぞれに驚きの思いを持って白蘭の傍らにいる青年を見つめた。

入江正一。
紹介されるまでもなく知っている。

白蘭が大学生だった頃から一番親しくしていた、文字通り親友だ。
だが、正一はその途中で未来の自分に封印されていた記憶を取り戻し、白蘭の動向を見張るスパイとなった。尤も、白蘭もまた正一の変化に気付き、親友の名の下にいつか裏切り敵に回る人間だと知りながら、泳がせていた。

(さあ、正チャンは、どんな手を打ってくるのかなあ)

白蘭は、楽しそうに笑っていたものだ。
入江正一は、ずば抜けて優秀な頭脳を持つ天才ではあったが、白蘭曰く感情が豊かに過ぎて、スパイほど向いていない任務もないほどだと。

真6弔花のリーダーである桔梗は、白蘭が決定したことならば異議を唱える気は無かったが、知りたくはあった。
「入江正一。何故気が変わったのです?」
「結局、裏切ることは出来ないと思ったからだよ」
「勝ち目は無いと、潔く認めたのですか?」
「確率としては、初めから8兆分の1なんて、限りなくゼロに近いことはわかっていたよ。……だから、そのことじゃない」

正一は、微苦笑をした。
「結局…スパイに徹することが出来なかったからだよ。6年傍にいた僕は、白蘭サンの親友でいたかったんだ。尤も、白蘭サンがどう思っているかは知らないし、これからもちゃっかり利用されるだけなのかも知れないけど」
「正チャン、正チャン」

白蘭が笑って、正一の赤茶の髪をわしゃわしゃと撫でた。
「正チャンつれないなあ。僕は、正チャンが僕を選んでくれて本当に嬉しいんだよ?正チャンは、6年も僕の傍にいてくれた大親友なんだからさ」
「ちょっと、髪の毛掻き乱さないで下さいよ。元々癖っ毛で収まりが悪いのに」

正一は、軽く白蘭の手を除けて自分の髪を手櫛で直したけれども、その口調は困ったもんだというような響きで、それは「よくあること」だったのが見ていてわかる。
つまり、親友同士のじゃれ合いだ。

次に、今度は本当に不満そうに口を開いたのは、ブルーベルだった。
「にゅっ!入江。なぁんで、マーレリングっぽいものつけてんのよ!」
「あ、それフェイクなんだよね」

白蘭がにこにこして答える。
「僕は、正チャンがいつ裏切るのかなあって思ってたものだから、ニセモノのマーレリングを持たせてたんだよ。γクンとかグロ君とかが持ってるのも、同じような偽のマーレリングね」
「じゃー、ニセモノってわかってるのに、どーして入江はつけっぱなの?」
「ああそれ、ニセモノでもAランクのすごい石なの。本物のマーレリングは超Aランクだから遠く及ばないけど、Aランクの石でもかなりレアで力が強いリングだから、何かの役に立つかなーって、正チャンに持ってもらってるんだよ」

正一は、黙っている。
親友と心を通わせた穏やかな表情にも見えるし、悲しむことさえ封じ込んだ諦念の表情のようにも見えた。

「……大丈夫だよ」

不意に正一が口を開き、ブルーベルを見つめて微笑した。
「僕は晴属性だけど、戦闘向きじゃないんだ。日本のメローネ基地は苔を動力源にしたり、植物を活性化したトリックを作ったりはしていたけど、僕自身は全く戦えない。……何より、本当のマーレリングを持っているのは君たちだなんだ。それが、白蘭サンが一番信頼しているのは、君たちだっていう、何よりの証拠だよ」

白蘭は、にこにこ笑ったまま、何も口を挟まない。
そして、紹介は終わり、白蘭は正一を伴ってその場をあとにした。

「あの、オツムだけが取り柄のお坊ちゃんを、何の役に立てるってのよ」
気怠く言ったザクロに桔梗が答えた。

「その、天才的なおつむとやらに用が有るのでしょう。入江正一は、タイムスリップの実用化の実験に、いくつか成功例を出しているようですからね」
「ほ〜。そんな大したことが出来ンのか。確かに、過去に遡ってあれこれすりゃあ、もっと面白いことになりそうだな」


「…ちっとも面白くないわよ」

ブルーベルは、苛々と言った。
「過去に遡れば、ブルーベルは泳げなくなる運命を変えられるかもしれないわ。でも、そうしちゃったら、ブルーベルはびゃくらんと会えなかったのよ」

ブルーベルにとっては、「水」を奪われたのは、この世を呪う不幸な運命だった。
しかし、その呪われた運命がなければ、白蘭との出会いもなかった。

「ブルーベルの一番はびゃくらんなんだからね!」

ブルーベルもまた、濡れた長い髪を翻して背を向けた。
苛々した。…そう、これは、「不安」などという心細く惨めな感情であってはならない。

なのに、どうして、自分は言葉を続ける事が出来なかったのだろう?

(びゃくらんの一番も、ブルーベルなのよ!)

どうして。言えなかったの。

白蘭と共に姿を消した、緑の瞳の青年の姿が脳裏によぎる。

「何よ。あんなモヤシ、何の役にも立ちやしないわ」

ブルーベルの方が、ずっとずっとびゃくらんの役に立てるわ。その度に、びゃくらんは「大好きだよ、ブルーベル」って笑ってくれるのよ。
 

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