01
雨属性で良かったわ。
殺すのは面白いけど、真っ赤な返り血を浴びるのが、汚くってブルーベルには似合わない。どろっとした赤なんて要らないから、自分の雨でざぁっと流し落としちゃう。
ブルーベルに似合うのは青なのよ。
世界で一番綺麗な色。
でも、そう思ってることはヒミツ。
炎には、7つの色があるんだもの。真六弔花で、青の炎を持ってるのはブルーベルだけ。
びゃくらんのことは、大好きよ。
銀色の髪の毛も、紫の目も、とっても綺麗。
だからね、それよりも青の方が綺麗よってブルーベルが言うのなら、びゃくらんはブルーベルのこと、キライになっちゃうかもしれない。それはイヤよ。
ブルーベルは、びゃくらんのために生きてるの。
びゃくらんと出会う前は、ブルーベルのいちばんは、ブルーベルだったのよ。ブルーベルだけ幸せなら、ほかのひとの幸せなんてどーでもよかった。
ブルーベルは、泳ぐのがとっても速くて、オリンピックに出場することが決まっていたくらいだったの。
金メダルはひとつだけ。だから勝つのもブルーベルひとりだけだって決まってるでしょ?
……でも、そうはならなかった。
ブルーベルの足は動かなくなって、ブルーベルは泳げなくなってしまったから。
あんなに、自分の運命を呪ったことなんかないわ。
大好きだった水を、憎んだこともないわ。
そんな世界で一番不幸だったブルーベルを助けてくれたのが、びゃくらんなの。
びゃくらんが、ブルーベルの足を治してくれて、水だけじゃなくて、お空も泳げるようにしてくれたのよ。
こんなに、誰かをだいすきーって思ったことなかったわ。
びゃくらんは、いつもにこにこ笑ってくれてるけど、ブルーベルはもっともっと、びゃくらんに幸せをプレゼントしてあげたいって思ったの。
そうしたら、自分だけ幸せならいいって思っていた過去が、急に色褪せて見えたわ。
誰かと一緒に幸せになる方が、ずっとすてきよ。
自分の為よりも、自分のすきなひとの為に生きる方が、ずっとずっと幸せよ。
だから、びゃくらんと会えたブルーベルは、とってもとっても嬉しいの。
また泳げるようになったことよりも、びゃくらんを好きって思ってることの方が、ずっとずっと嬉しいのよ。
そうびゃくらんに言ったら、びゃくらんも笑って、「僕もとっても嬉しいよ」ってブルーベルの青い髪を撫でてくれたの。
ねえ、びゃくらん。ブルーベル、今日はどこに泳いでいけばいいの?びゃくらんの言う通りにいっぱい殺してあげるね。
これから帰ろうって、お空をすいすい泳いでいたら、綺麗な森が広がっている場所を見つけた。
……ふぅん。緑も悪くないわ。ブルーベル、今までいっぱい殺さなきゃならないから、人間がたくさんいる場所に行くことが多かったのよ。
でも、これだけ広い森が広がってるのなら、人間はあまりいなそうね。
じゃあ用はないわって、通り過ぎようとしたら、不思議な場所を見つけた。
そこだけ、森が途切れているの。
木々に守られるように、そこだけお花がたくさん咲いていたの。
…ちょっと、これは綺麗だわ。
そう思うのは、いいよね?びゃくらんだって、お花は大好きだもの。ブルーベルも、お花を好きになりたいわ。
ふわふわ、お花の方に降りていったけど、ブルーベル、ビミョーな気持ち。
だって、そこには赤や黄色や白のお花はたくさんあるけど、青いお花は見当たらなかったから。ピンク…は可愛いわ。ブルーベルは女の子だもの。可愛いものは全部すき。
でも、可愛いのがピンクなら、綺麗なのが青なのよ。
どうして、青がないの?
そう言えば、びゃくらんが青いお花を飾ってるのはみたことがないわ。いいとこ、青紫よ。
どうしてなの?世界で一番綺麗な色が青なんだから、青いお花もどんなお花よりも綺麗なはずなのに。
「……さっき、雨を降らしてくれたのは、君なのかな」
ブルーベル、ちょっと驚いて振り向いた。
誰もいないと思ってたのに。
そこに立っていたのは、男のひとだった。
赤茶色の髪に、緑の目。…森みたいな緑。
ブルーベル、いきなり現れたそいつを、じーっと観察した。
「…よく言えば、やさしそう、っていうタイプ?でも、軟弱なのと紙一重よ」
「…………」
そいつはきょとんとして、それから少し困った顔をして笑った。
「ん…。当たってる気がするけど、こんなにハッキリ言われたのは初めてだよ」
ブルーベル、何となく調子が狂ったわ。
「ちょっと。困るくらいなら、怒りなさいよ。そういう感じが軟弱っぽいのよ」
でも、そいつは怒らなかった。
「ありがとう」
「え…?」
「久し振りに雨が降ってくれたから、花たちがとても喜んでる」
やさしく、笑った。
…どうしてよ。ブルーベル、何となくほっぺたが熱いわ。
「花が喜んでるとか、何それ電波?」
「ふふ、違うよ。雨を降らしてくれた君なら、花の気持ちが伝わってくるんじゃないかな」
ブルーベル、花を見渡してみた。
花びらに、葉っぱに、雨の雫がまぁるく光って、きれい…
緩やかな風に、お花が、揺れてる…
「…ね?」
お花と一緒に、緑の瞳が笑ってた。
「僕は、入江正一。人魚と出会ったのって、生まれて初めてだよ」
[ 1/104 ][*prev] [next#]
[図書室66]
[しおりを挟む]