02

ブルーベル、実は人魚っていうか、しっぽの部分はそれっぽい魚竜らしい。
でも、プールでも海でも空でも、誰よりも速く泳げるブルーベルは、自分のこと人魚って思ってるし、他人にそう思われるのも悪い気はしないわ。

「あたし、ブルーベルよ」
「花の名前だね」
「…そうなの?」

ブルーベル、逆に聞き返しちゃった。
そういえば、びゃくらんは、「蘭」かもしれない。桔梗は、紫の花よ。デイジーは…どんなだったかしら?でも、言われてみればそんな花があったかも。

「この花だよ」

そいつ…入江は、屈んで花を指差した。
ブルーベルは、その花をじーっとみて、可愛いけど気に入らなくて、むーっとふくれた。

「……青じゃない」
「そうかな。紫より、青に近いと思うけど」
「ほら入江だって、紫って言ったーーー!!!」

ブルーベル、足だったら踏み鳴らして癇癪起こしたと思うけど、しっぽでふわふわ宙に浮かんでいたから出来なかった。
あ…でも、足でもそれはダメなのよ。青じゃなくても、ここにはたくさんのお花が咲いていて、ブルーベルの雨を喜んでくれたんだもの。

「ブルーベルはね!ブルーっていうから、青!だと思ってたのっ!!お空みたいな、海みたいな、プールみたいな!青っ!!」

…プール?と入江は首を傾げた。

「そう言えば、プールの底って、どうして水色に塗られているんだろうね」
「知らないけど、水だから水色で、青!が綺麗なのっ!!」
「君は、本当に青が好きなんだね」
「当たり前でしょっ!青は、世界で一番きれいな色なんだから!!」
「……空か水みたいな青じゃなきゃ、イヤだった?」

入江が、また困ったような…ううん、可哀想って思ってるようなお顔で小さく笑った。
「僕は…この花が好きだよ」

その声は、ブルーベルに話しているような、入江の独り言のような…

ううん、違う。
入江は、ブルーベルが好きって言わなかった、ブルーベルと同じ名前のお花を想って言っているんだわ。
ブルーベルの代わりに、好きだよって言ってあげてるんだ。

そうしたら、ブルーベルは、急にこの青紫の花が可哀想に思えてきた。このお花が、ブルーベルに嫌われてると思って、悲しんでいるような気がして……

「この花はね、イングリッシュブルーベルっていうんだよ。……本当は、咲かせて置いてあげるのがいいんだろうけど」

入江は、足元から1本のイングリッシュブルーベルを摘み取った。それは、いくつも花を付けて、その名前の通りたくさんの小さなベルが集まったようなお花。

「……青紫だけど、可愛いわ」
「そう。よかった」

入江は、柔らかく笑った。
「その香りは好き?」
「あ…」

ブルーベルが、鼻を近づけてくんくんってしてみると、爽やかな、とってもいい香り…

「いい香りの、綺麗な花。それが君と同じ名前のブルーベルだよ。君に似合うと思うよ」
「…………」

ブルーベル、どうしてか、ほっぺた熱くなったわ。
「にゅーっ!なぁによぅっ!!入江のくせにころしもんくーーー!!!」
「…え?あの、ごめん」

ブルーベルが叫んだものだから、入江は困ってたけど、そのお花をブルーベルに差し出した。
「君にあげるよ」

入江の手に、ふわっと優しい黄色の光が灯る。
「こうしておけば、水に入れて飾っておいても、少しだけ長く咲いていてくれるはずだから」

ブルーベルは気付いた。
光…に見えたけど……晴属性の炎?

「入江って、晴属性なの?」
「うん。あまり強くないけどね」
「つまり、バトルしても弱いのね」

くすって、入江が笑った。
「僕の炎はね、戦闘能力は一切無いんだ。こうしてね、花や森に力を貸してあげるだけで」
「ふぅん…」

確かに、入江に戦いは似合わないってブルーベルは思った。
もし、その炎がとても強いものだったとしても、入江は戦うようなひとじゃないのよ。

「強くない炎って言うけど、死ぬ気の炎を操れる人間って、千人にひとりいるかいないかのレアでしょ?」

それは、強い覚悟を持てる人間だけ。

「入江は、どういう覚悟を持っているの?」

……ブルーベル、いけないこと訊いちゃったのかな。入江は、たくさんの花に囲まれているのに、悲しそうに見えた。

「覚悟って、いうようなものなのかな…」

さぁっと、風が入江の赤茶の髪を揺らして、ブルーベルの長い青色の髪をなびかせた。


(僕はただ、ここに咲いている花たちを、咲かせたままにしておいてあげたかったんだ)

「入江…?」

ブルーベルが、顔にかかった髪を指で除けたとき、もうそこに入江の姿は無かった。

「入江!どこ?」

呼んでみたけど、返事は無かった。
お花たちの花びらや葉っぱに、雨粒がまぁるく光っているだけで。
イングリッシュブルーベルの花が、爽やかな香りで揺れているだけで。


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