01

チャイナ美女が私を見上げて言った。

「ヴェルデ。私と一緒にいてくれませんか?」
「…………」

私が一抹の違和感を覚えたのは、多分美女=風の科白が、どちらかというと男から女へ申し込む言葉なのではないか?…ということだろうか。

例えば、プロポーズの時に、一生を共にして欲しい、というような。
私がそれを指摘すると、風はにこりと笑った。

「私と貴方は相性が悪いと思います。だから、期間限定です」
「ふむ」

確かに、絶世の美女だが、無敵の拳法家とやらで脳味噌まで筋肉で出来ていそうな風と、体術などからっきしで、数百年にいちどの天才と讃美される科学者の私とでは、何ら共通点が無い。

人間関係とは、何らかの共通項を持った者同士が惹かれ合うものだ。
それは、価値観という漠然したもののこともあるし、分かりやすく趣味などという興味関心などのこともある。そういう意味で、私と風には何の共通項も見出せなかった。

「それで、期間限定とは、いつまでだ?」
「ヴェルデが、私と一緒に暮らすのが心底イヤだと言い出すまでです」
「成程?微妙にイヤだ、ではなく心底イヤだ、までお前は粘るのか?」
「弱い精神は強い肉体に宿りません」

どうやら、風は粘ると言いたいらしいが、私には疑問があった。
「お前の方が私から離れたくなる、という可能性を考えないのか?」
「それはありません」

風は、にこりと笑った。物騒の権化とも思えぬ、花のような笑顔だ。

「このように申し込むのは、私がヴェルデを好きだからです」
「…………」

不覚だ。私の優秀な頭脳が、5秒も停止するとは。

「同居を申し込まれた以上、お前が私を好いているという言い分は私に対する恋愛感情で、実際には同居というよりも同棲を申し込まれたように聞こえるのだが?もし違うというのならば、別の適切な言葉を選びたまえ」
「いいえ。それで合っています」
「相性が悪いと言ったのはお前だろう。お前に何のメリットがある?」

くすりと風は笑った。
「ヴェルデは、理に傾きすぎて情に対する理解が足りません」

私はむっとした。
「私は何人も人間を研究対象にしてきたが、人間は理屈よりも感情に従いがちな生物であることくらい知っている」
「そうですか。それは失礼致しました」
風は、言い争うことはしない、礼儀正しい人物だということも、私は把握済だ。

「でしたら、ヴェルデはもう知っているでしょう?」
「何がだ」
「人間は、理不尽の塊です。相手のことを何も知らないのに、心惹かれて恋をするのです。報われなくても、苦しくても切なくても、その気持ちは消えないのですよ」
「それは、にこにこしながら言うことなのか?」
「いいではありませんか。ヴェルデにその気が無くても、束の間傍に置いて貰えるのなら、私はその束の間の幸福を、一生の宝物に出来るのですから。それはメリットとかデメリットとか、そのようなものではないのです」

一生の宝物。
そんな言葉は、私の中には存在したことはなく、私は不意を突かれたのだし、自分はそのようなものとこれから巡り会えるのだろうかと思った。

私にとって、興味関心を持った事象は、全て平等だ。生きている限り、私はそのような存在を見出し続けるのだろう。
この世の全ての謎を解きたいというのが私の望みだが、残念ながらそれは叶うまい。叶う前に私の寿命が尽きるからだ。残念なことに。

「それは、素敵なことですね」
これも、意外な事を言われた。

「だって、ヴェルデは世界の全てを愛しているのでしょう?」

これも、初めて言われた。
深く考えたこともなく、私らしくもなくまた黙った。

「本当は、邪魔だからとお断りされるのかと思っていました。一緒にいられて嬉しいです」
確かに、私はひとりで研究生活を送るのが性に合っているので、そこに踏み込まれるのは多分不快に思うのだろうが、それは私の予想に過ぎない。

「まあ、体験してみなければわからない、ということはいくらでもあるからな。部屋は余っているから好きな場所を選べばいい」

そうして、私と風の、同居…ではなく、世間の目からすれば同棲生活が始まったのだった。


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