01

 
もう秋はそこまで来ているけれども、まだ日差しは強くて晴れた日には気温が上がる。

だから、今日はお気に入りのエプロンドレスに、シーズンオフでお買い得だったストローフラットバレエシューズ。
水色のワンストラップと同じ色のリボン付き。麦わら帽子もサックスチェックのリボン付き。

「にゅ。今日もかわいいわ、ブルーベル」

鏡の前で、ブルーベルはじーっと自分を見つめた。これにバスケットを持てばかんぺき!のはずなのに。
「なんだか、ものたりないわ」

ブルーベルは、自分でも分かっていた。
デートの度に一所懸命おしゃれをするのだけれども、自分の好みの範囲内になってしまうので、似たようなイメージになってしまうのだ。

「ねーねー、桔梗」
ブルーベルは、とたとたと階段を下りて尋ねた。

「今日のブルーベル、かわいい?」
「可愛いですよ」
「なぁに、桔梗を相手に白雪姫の継母みてえな事言ってんだよ」
「ザクロうるさあぁい!!」
「アハハ、ザクロ君。グリム童話の初版では実母なんだよ。7歳の実の娘の方が美しいって言われて殺意を覚えちゃうお母さんって、かなり怖いよね〜アハハハハ」
「白蘭様。7歳のブルーベルの前で言わないで欲しいのですが…」

だが、ブルーベルは思った。
7歳で、そのくらい美しくなれちゃうのだ。おとなのママンよりも美しく!!

「上等よ。なりたいわ、そんなかんじに」

桔梗は首を傾げた。
「何もしなくても、既に入江正一の目にはそうでしょう。何なら、彼に世界で一番美しいのは誰と聞いてみては?きっと、魔法の鏡の如きに、ブルーベルが満足する答えが返ってきますよ」

ブルーベルは、口から魂が抜けそうになった。

「…って極端なことやらなくてもさ、ブルーベルはきっと、少しイメージチェンジしたかったんだろう?」

白蘭の声に、ブルーベルは意識を取り戻した。
「にゅ…。ブルーベル、いつもおんなじかんじになっちゃうから。いつもとちがうかんじにしたいのよ」
「似合ってるし、正チャンもそう思ってるだろうけど、乙女心としては複雑だね。…ってゆーわけで美容部員・桔梗。出番だよ♪」

桔梗は、ブルーベルの長い髪を掬い取った。
「ブルーベルは、一番印象的なのは髪の毛でしょうか」

そう言って、ブルーベルの髪をふたつに分けると、器用な手つきでふんわりとした三つ編みに結った。
鏡で見たブルーベルは、にゅ…と考え込んだ。

確かに、自分でも可愛いと思う。イメージチェンジだと思う。でも、美しい、というのとは違う気がする。

「うつくしいとか、おとなっぽいかんじじゃないわ。赤毛のアンっぽいわ」
「お前は青いしな」

ブルーベルの目が据わった。
「だから何?ブルーベルはあおい美髪よ。びゃくらんは白の美髪で桔梗はみどりの美髪よ。敵にまわすの…?」

回したくない、とザクロは心から思った。

「ザクロが髪をのばして赤毛のアンになればいいわ」
「ならねーよ!!」
「あ、ブルーベル。僕白髪じゃないから。銀の美髪だから」

わいわいやっているうちに、メイドに案内されて、約束の時間20分前に正一がやって来た。

「コイツら…ホント時間の約束意味ねーな」(ボソ)
「ザクロ何か言ったかい?」

正一笑顔。気の所為か何か怖い。
ザクロの無言は置いといて、正一はブルーベルに笑いかけた。

「今日は三つ編みなんだ。可愛いね」

沈黙が、流れた。

「うわあああん!!やっぱりブルーベルはかわいいのよ!!うつくしくないんだーーー!!!」
白蘭に抱き付いたブルーベルを見て、正一は小首を傾げた。

「僕…何かいけないこと言ったのかな」
「入江正一」
「何だい桔梗。僕にまで流し目しなくていいから」

構わず桔梗は言った。
「世界で一番美しいひとは誰ですか」
「…………」

正一は、再び沈黙した。白蘭とでも言わせたいのだろうか?或いは、ナルシストの極みで桔梗だとでも言わせたいのだろうか??
でも、この流れは、何かが違うような気がする。

そして、思い至った。

「あとでブルーベルに直接言えばいいだろう!!」

正一は真っ赤になって、同じく真っ赤になっているブルーベルの手を引いて、白蘭・桔梗・ザクロの3人の(・∀・)ニヤニヤに見送られて屋敷から出て行った。


繋がれた手が熱い、と思いながら、ブルーベルは歩いていた。
森の小径を歩いていたはずなのに、いつの間にか街のレンガの道を歩いていることに気が付いた。

街のざわめきの中で、正一が言った。
「……さっきの、桔梗の質問の答えだけど」

ブルーベルはどきんとした。
「屋敷の中でばらしてしまった気もするけど、僕の答えは、…ブルーベル、だよ」
「…………」

ブルーベルは、にゅーっと叫んだ。
「うそよっ!びゃくらんや桔梗の方が“びれい”だわっ!!」
「ん…まあ、確かにあのひと達は美麗だったり妖艶だったり、男の癖に困った人達なんだけど」

正一は、ブルーベルを見下ろして、にこりと笑った。
「僕が、いつまでも見ていたいって思うのは、君なんだよ」
「…………」

ブルーベルは叫んだ。
「にゅーーーっ!!入江のくせに、ころしもんくーーー!!!」
「あはは、ごめんね。でも本当だよ」

いつもと同じ街角を、いつもと違う三つ編みを揺らして歩いて、ジェラートを食べて、それから木陰のベンチでひと休み。
ブルーベルがバスケットからサンドイッチを取り出そうとすると、正一がブルーベルの三つ編みに触れた。

「なぁに?」
「ちょっと待ってて」

正一の手が、ブルーベルの三つ編みを解いてゆく。
「……似合わないの?」
「そうじゃないよ」

全部解き終わると、いつもより細かいウエーブの長い髪が、ふわりと風に揺れる。

「いつもの君も綺麗だけど、こういうのもいつもと違って綺麗だね」

柔らかい風の様に笑うから。頬が、火照る。

「……それに、解いてみたくなったんだよ」
「きれいだから?」
「…君の髪を編んだのって、白蘭サンか桔梗だろう?」
「桔梗よ」
「そうだろうと思ったよ」
「にゅっ!どーせ、ブルーベルはひとりでできないよっ!うつくしい、なんておとなのことばだもん!!」
「……違うよ」

正一の指が、ふんわりとしたブルーベルの髪を梳いた。

「僕の、やきもちだよ」
「…………」

ブルーベルは、にゅにゅーっと叫んだ。
「入江のくせに、ころしもんくーーー!!!」
「そうかな。僕、カッコ悪いなあと思ったんだけど」
「カッコ悪くなぁいっ!!このタイミングは、おとなのおとこのころしもんくなのよ!!」
「僕はまだ高校生なんだけど…」
「こうこうせいは、おとななのっ!」

くすりと正一は笑った。

(いつか、君の為に本当におとなになるよ)




 

 かがみよ かがみよ かがみさん

 せかいでいちばんうつくしいのは、だぁれ?







〜Fin.〜

 

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