01

ウチはもう、あの子を好きになるしかなかったんだ。

ウチが日本に来て、一番はじめに親しくなって、一番はじめに優しくしてくれた女の子。
ウチが思っていた黒髪に黒い瞳じゃないけど、紅茶色の柔らかそうな癖っ毛の、眼鏡の向こうは綺麗な緑色の瞳のヤマトナデシコ。

ウチと親しくしてくれた理由が、あの子が学級委員で、英語も上手で丁度いいからって担任に頼まれてウチに色々親切にしてくれたって、それだけなのだとしても。
あの子の繊細な気遣いや、ちょっとはにかんだ笑顔は、たったひとりで遠い海の向こうからやってきたウチには、とてもとてもあったかく思えたんだ。

その子…正一は、美人って訳じゃないんだけど、結構人気があるんだなって、ウチは転校してきてそんなに時間がかからずに気付いた。
ただ、一見おとなしそうなんだけど、案外気が強くでズバッとぶった切るとか、一見優等生で、実際優等生すぎて、中等部以来ずっとテストは学年1位に燦然と輝いているとか、フツーの男としては友達にはなれてもそっから先に踏み込むには隙がない感じ。

でもウチは、隙がなくても入り込みたかった。
本当は好きなのに、怖じ気づいているうちにほかの男に取られるなんて、ウチは棺桶に足突っ込んでも成仏出来ないのに決まってる。

だから、玉砕覚悟だ。
伝えなくて後悔するより、伝えて花と散る方が、親日家すぎて日本ヲタと呼ばれるウチらしいと思う。

「正一、すきだ」

正一は、驚いた顔をした。

「…ありがとう」

ほっぺた赤くして、でも俯いた。
曖昧にするのが、日本人の流儀なのかも知れないけど、ウチは曖昧な平穏よりも、ハッキリとした変化を望んで告ったんだから、分かってたのに優しい正一を追い詰めた。

「英語圏では、I like you.で十分だけど、日本人にはこう言わないと通じないのか?I love you,Shoichi.」

I love you なんて、告白としてはすごく重い言葉で、1発目の告白ではまず言わないんだけど、この時のウチはもう正一を世界で一番可愛い花嫁さんにしたいくらい好きだと思ってたから、死ぬ気の覚悟で伝えるのならこれでも良かったんだ。


「……ごめんなさい」

それが、泣き出しそうな顔の正一の返事で。
ウチも失恋でこっぱ微塵だけど、正一を傷付けたことだけは後悔した。

「ごめんじゃないよ。ダメ元で告ったのウチだから」

分かってたんだ。知ってたんだ。
正一のはにかんだ笑顔は、ただ正一がシャイな子だから。ウチにだけ向けられてる訳じゃないんだって。

それが、ウチには切なくて、ウチが勝手に正一の特別な男になりたかっただけなんだ。

「泣かないで、正一。ウチに、悪い事したって思わないで。ウチは、正一の恋人になれなくても、これからも正一と仲良くしていたいんだ」

それはきっと辛いことだけど、自責した正一に避けられて、正一の全部を失ってしまうよりもずっといいんだって、ウチは自分に言い聞かせた。

「正一って、付き合ってるヤツいるのか?」

何で今更、こんなこと聞いてんだろ。

「……ううん」
正一は、ちっちゃい声で答えた。

「片想い…」
「……そっか」

ウチは、ソイツがすごく羨ましかった。
ウチには出来なかったのに。正一を振り向かせて、正一の特別になることが、ソイツには出来たのに。

「告んないのか?」

ウチ、完全に余計なお世話。

「うん…。僕には、勇気がないから」
「違うよ。正一の好きな男disりたくないけど、その男に見る目がないだけだ。正一は可愛いよ。ウチがあっという間に好きになったくらい素敵だ」

正一は、顔を赤くしたまま戸惑ってた。
だよな。振った男に褒められたって、反応に困るんだろうし。

「まあ、ウチハートブレイクしたけど、自力で立ち直るから心配するな。正一は何も気にすることないよ」

ウチ、うまく笑えたかな。
正一の髪、手でぽんぽんってしてみた。やっぱりふわって柔らかかった。
 

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