01

入院患者や家族のフリースペースになってるロビーに、車椅子のひとがいた。

男のひと…男の子。どっちかな。
ブルーベルよりいくつ年上なんだろう?

「ねえ、あんた。どーして車椅子?」

東洋系…だけど不思議な感じ。
赤毛っぽい茶髪だけど、きっと生まれつき。根元黒くないし、よく見たら、眼鏡の向こうの目は緑色。

「骨折したんだよ」
にこ、って笑った。それって、笑って言うようなことなの?

「にゅ。間抜けね」
「あはは、僕もそう思うよ」

怒るんじゃなくて、照れ笑い?
今のブルーベル、結構イジワルだったと思うんだけど。

「骨折なら、松葉杖で歩けばいいでしょ」
「それが、両足なんだよね…」
「両足って珍しくない?」
「うん…どうして両足かなあ…」

そのひと、遠い目になった。
「大学の階段から落っこちただけなんだけど…。お見舞いに来た友達からは、お前ってある意味器用だよなとか、老人並みに骨が脆いのかとか言われるし」

ふぅん…大学生なんだ。
お見舞いに来てくれる友達、いるんだ…

ブルーベルは、学校なんて興味ないし、スイミングクラブの子どもはみんな格下で、大人はライバルよ。

きっと、ブルーベルが泳げなくなって、ざまあみろって思ってるか、可哀想ってヘンに同情してるかどっちかだわ。
だから、お見舞いなんて来ないけど、来ない方がいいの。

……誰も、来ないで。

「あ…、僕は、入江正一。日本人だけど、アメリカの工科大学にいるんだ」

何となく…名乗る流れっぽいわ。
優しく笑って言われちゃったから、「あっそう」で済ませるのも、ブルーベルがイヤな子みたい。

「あたしはブルーベルよ。イギリス人だけど、こっちの病院の方がいいからって、わざわざ連れてこられたのよ」

専門のいい先生がいて、手術もリハビリも上手だからって。
事故に遭ったから、その時にいちどは手術してるのに。また手術?ってブルーベルはちょっとイヤだった。

2回分、ブルーベルの綺麗な足に手術の傷跡が残るの?
ブルーベルだって女の子だもの。綺麗でいたいのは当たり前よ。綺麗じゃなくなるのは、悲しくってつらいのよ。

でも、綺麗じゃなくてもいいって覚悟を決めたのは、ブルーベルにとっては水泳が一番だったから。オリンピックでメダルを取るの。その為なら、傷跡だって勲章になるわ。

「ブルーベル…。ああ、イギリスでは有名な春の花の名前なんだね」
「ちょっと。男のくせに、どーして花の名前なんか知ってるのよ」
「え?おかしいかなあ。日本の桜、って言ったら世界中で有名だと思うけど」

……そう言われたら、そうなんだけど。

「ブルーベルって、いい匂いの可愛い花だよね。君によく似合うと思うな」
「…………」

ブルーベル、かーってほっぺた赤くなっちゃったじゃないの!不覚だわ!!

「いきなり何よ!天然タラシっ!!」
「…………」

大学生=入江は、きょとんとして、それから困ったお顔で笑った。
「えっと…そういうつもりじゃなかったんだけど、ごめんね」
「…………」

……ちょっと。今日のブルーベル、ヘンよ。
知らない男のひと(大学生ならおとなよ。男の子、じゃないわ)に自分から話しかけてみたり、名前を褒められただけで赤くなったり。

(そういうつもりじゃ)…

どうして…?今、ブルーベルは少し…認めたくないけど、傷付いたのよ。
ばかみたい。大学生なら、今12歳のブルーベルより、最低でも6歳、ひょっとしたら東洋人で若く見えるから10歳以上、ブルーベルより年上なのに。

入江はただ、ブルーベルのこと、子どもだと思って優しくしてくれているのよ。
ブルーベルがきつい事を言っても怒らないのも、入江がブルーベルのこと、元気な子だなあ、くらいに微笑ましく思ってくれてるだけなのよ。

思わせ振り、なんて。
そんなの、ある訳ないじゃないの。

そして、気が付いた。ブルーベルはイギリスからアメリカのこの病院に来たって言ったのに、どうしてブルーベルが車椅子に乗ってるのか、どうしてこの病院にいるのか、入江は全然きかなかったのよ。

「興味ない、ってこと?入江は答えたくせに」
「え?何の事だい?」
「入江は、どうして車椅子かってブルーベルに聞かれて、洗いざらい話したでしょ。でも、入江は訊かないんだね。どーしてブルーベルが車椅子で、イギリス人のくせにここにいるのかって」
「あ…それは……」

困ってて、やっぱり緑の目は優しかった。

「病気でも怪我でも、好きでなるものじゃないし、色々事情があると思うから、君が自分から話そうとしないなら、訊かない方がいいと思ったんだ」

やっぱり、入江が優しいから。
ブルーベルは、全然優しい子じゃないんだって思った。

「じゃー、ずけずけと訊いたブルーベルは、入江にしてみればかなり無神経な子ね」
「……そんなに、自分を責めなくていいんだよ」

ブルーベルは、驚いた。だって、入江が、ブルーベルが思ってもみなかったことを言ったから。

「僕は少しも傷付いていないから、心配いらないよ。君は無神経な子じゃないよ」

優しい声で、ブルーベルが気付いてなかったことを引っ張り出して。
だから、ブルーベルが泣いちゃったのは、入江のせいよ。

でも、大人のくせに、おろおろするなんて、男らしくないわ。入江だって、ブルーベルの為に困らなくたっていいのよ。


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